2022 Fiscal Year Research-status Report
腸炎ビブリオファージの多様な宿主認識機構:腸炎ビブリオ制御への展開
Project/Area Number |
22K14947
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山木 将悟 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (20824337)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | バクテリオファージ / 腸炎ビブリオ / 食品衛生 / 感染機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸炎ビブリオは水産物を汚染する食中毒細菌である。本菌は海水や水産物に広く分布しており,低温管理から逸脱した水産物の生食などにより食中毒の原因となる。近年,食中毒細菌の制御を目的として細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)を利用した微生物制御手法が注目されている。本研究では,腸炎ビブリオに感染するファージを分離し,その宿主特異性に関して明らかにした上で,腸炎ビブリオファージを利用した腸炎ビブリオの制御手法を構築することを目的として研究を行った。 令和4年度は,腸炎ビブリオファージの分離に取り組み,複数の腸炎ビブリオファージの分離に成功した。分離ファージの中から,様々な腸炎ビブリオの菌株に対してプラークを形成するファージVF-16を選抜し,一段増殖実験や吸着動態の観察,透過型電子顕微鏡によるファージの形態観察などを行なった。腸炎ビブリオファージVF-16は非収縮性の長い尾部を持つ(siphovirus)ファージであり,迅速に宿主細胞へと吸着することが明らかとなった。さらに,VF-16の増殖には,培地へのカルシウムイオンやマグネシウムイオンの添加が必要であり,腸炎ビブリオの増殖を阻害するためにはVF-16と二価カチオンを併用する必要があると推察された。実際に,カルシウムイオンとマグネシウムイオンを添加した液体培地で腸炎ビブリオの増殖抑制能を調べた結果,VF-16添加区ではVF-16未添加区と比べて腸炎ビブリオの増殖が大きく抑制された。 以上のように,令和4年度は腸炎ビブリオに感染するファージを複数分離するとともに,そのうち一株のVF-16を用いて,腸炎ビブリオファージが腸炎ビブリオの増殖抑制剤となり得る可能性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は複数の腸炎ビブリオファージの分離を計画していた。現在,複数の腸炎ビブリオファージの分離に成功しており,令和5年度の秋まで引き続き腸炎ビブリオファージの分離を行う予定である。さらに,令和4年度は分離ファージの選抜時に行う試験内容も検討することができ,今後使用するファージのひとつとしてVF-16の性状の一端を明らかにすることができた。したがって,進捗状況をおおむね順調と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は腸炎ビブリオファージの分離を引き続き行い,多様な宿主域を持つ腸炎ビブリオファージのコレクションを拡充する。それと共に,優れた宿主域,優れた溶菌性を示すファージを複数株選抜し,令和4年度に試験したように選抜したファージの性状を調べる予定である。さらに,選抜したファージのゲノム解析を行い,どのような分類群に属するかを決定し,近縁のファージとの比較を行う。これにより,ファージのレセプター結合タンパク質をコードする遺伝子を推定する。令和6年度以降は,選抜した腸炎ビブリオファージが細菌細胞のどのような物質を利用して吸着するのかを実験的に調べる予定である。その後,複数の腸炎ビブリオファージの宿主認識機構の違いを利用した腸炎ビブリオファージカクテルの調製を試み,腸炎ビブリオに対する増殖抑制能を評価する予定である。
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