2022 Fiscal Year Research-status Report
協調性と再現性に基づく運動技能分析手法の構築と応用
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22K17706
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Research Institution | National Agency for the Advancement of Sports and Health |
Principal Investigator |
木村 新 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター, スポーツ科学・研究部, 契約研究員 (20878243)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ばらつき / 成功率 / 協調性 / 再現性 / 技能 / 動作解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題は、投球課題を対象に協調性と再現性という観点から、熟練者がいかにして高い成功率を実現しているのかを明らかにする試みである。 2022年度は、協調性に焦点を当てた研究を行った。これまで協調性とは、投射物の到達位置のばらつきを抑えるリリースパラメーター (リリース時のボールの位置、速度、角速度) 間の有機的な関係性として捉えられていた。しかしながら、ここで問題となるのは、到達位置のばらつきを抑えることと成功率の増加との対応度合いである。到達位置のばらつきを抑えることが常に成功率の増加を導くのかというと、そうとは限らない場合がある。この認識が不正確な場合、熟練者がいかにして高い成功率を実現しているのかという本申請課題の根幹である問題を明らかにすることが難しくなる。そのため、当初は計画していなかったものの、到達位置のばらつきを抑えることと成功率の増加との対応度合いを実験的に検証する研究を行った。 また、本研究を通じて、動作解析研究で使用されている「役割」という概念について興味深い示唆を得ることができた。リリースパラメーターは、運動課題の条件によらず到達位置のばらつきを抑える役割を有していた。一方で、リリースパラメーターに成功率を増加させる役割があるかどうかは、運動課題の条件に応じて変化していた。このことは、動作解析研究で考えられている「役割」という概念が指す具体的内容は不変的なものではなく、運動課題の状況に応じて変化し得る可変的なものであるということが実験的に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究は、当初の計画にはなかったものの、論文としてまとめ投稿まで行ったので、研究計画全体としてはおおむね順調に進行していると考えられる。 上記の研究では、野球の投球を実験課題として採用し、到達位置のばらつきを抑えることと成功率の増加との対応度合いを検証できるような実験システムを構築した。実験システムの構築にあたって予備実験の段階で、参加者にどういった教示を与えるか、参加者からターゲットまでの距離をどの程度にするか、ターゲットの大きさをどの程度にするのかなどが検討された。また、リリースパラメーターに到達位置のばらつきを抑える役割と成功率を増加させる役割があるかを分析する手法をそれぞれ確立した。これらの手法は、既に公表している論文 (Kimura et al., Journal of applied biomechanics, 2023) を基に確立された。加えて、コンピューターシミュレーションにより、成功となるリリースパラメーター同士の組み合わせを抽出し (リリースパラメーターにおける解空間の構築)、それと実データを照らし合わせることで、実データのリリースパラメーターに成功率を増加させる役割があるかどうかを検討した。この手法は主に、運動制御の分野で用いられている一方で (Cohen & Sternad, Experimental brain research, 2009)、動作解析研究ではあまり用いられていない。投稿した論文では、解空間を構築するこの手法を動作解析研究に取り入れる意義や利点について議論した。 確立された実験システムおよび分析手法は、今後の計画を遂行する上での基盤となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は基本的には当初の計画に基づいて研究を進める。 研究1 : 再現性を評価する分析枠組みの確立 再現性を評価する手法の候補はいくつか考えられる。1つ目は、あるリリースパラメーターのばらつきを増大させた場合の成功率をシミュレーションにより算出し、その成功率と実測の成功率を比較する方法である。ただし、この方法の場合、どのくらいばらつきを増大させることが妥当なのかという問題が存在する。2つ目は、リリースパラメーター間に協調性がなかった場合、再現性を高めることによって成功率を増加させていたと解釈する方法である。この方法の場合、例えばターゲットが極端に大きい時に、協調性がなかったらといって再現性を高めることによって成功率を増加させていたと解釈して良いのかという疑問が残る。3つ目は、熟練者と非熟練者を比較し、熟練者のどのパラメーターのばらつきが小さく、そのことが成功率の増大に貢献しているかどうかを調べる方法がある。この方法の場合、常に群間での比較を通じてしか検討できないので、限定的な見解しか得られないのではという印象がある。今後は、さらなる候補を検討し、複数の方法を組み合わせることで分析手法の確立を目指す。 研究2 : 熟練技能の形式化 熟練者と非熟練者を比較し、もし両者に同様の協調性や再現性がみられた場合、それらは投球動作の習熟度合いとは関係なく生じうるものであると解釈される。一方で、両者で異なる協調性や再現性がみられた場合、それらは投球動作を習熟することで獲得された技能であると解釈される。熟練者と非熟練者を比較することは、技能を形式化する上で有効なアプローチであるが、動きの違いを記述するだけでは不十分である。技能の形式化のためには、行為者が運動課題をいかにして達成しているのかについて説明する必要があり、そのための研究を2022年度の研究と上記の研究1で行っていると位置づけられる。
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Causes of Carryover |
流行している新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、感染症拡大防止の観点から国際学会への参加を控えた。国際学会への参加を次年度に繰り越して実施するために,翌年度へ予算を繰り越すに至った.
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