2022 Fiscal Year Research-status Report
New avenue in high-resolution spectroscopy via visualization of molecular quantum states of motion
Project/Area Number |
22K18327
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大島 康裕 東京工業大学, 理学院, 教授 (60213708)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 雅明 東京工業大学, 理学院, 助教 (90909384)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
Keywords | 高分解能分光 / 超高速分光 / 回転コヒーレンス / 量子波束イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロ波からテラヘルツ領域における高分解能分光は、分子構造の精密決定や構造異性化の解明にとって最有力な実験手法である。一方で、高感度な検出手法と組み合わせることが本質的に困難であったため、赤外~紫外領域の分光法と比較して大幅に不利な状況に留まっている。本研究は、輻射場と分子系とのエネルギーのやり取りを観測量としてきた従来の分光法とは全く異なり、分子の空間配向分布の時間変化からスペクトル情報を得る「量子波束イメージング分光」を開拓し、反応性が極めて高く極微量にしか生成できないため回転スペクトル測定が困難だった分子種の高分解能分光を展開する。研究初年度である本年度は、以下のさまざまな分子錯体の観測に成功した。 1)アルゴン2量体:分子間相互作用で結合した錯体としてはもっともシンプルな系であり、極めて高精度の量子化学計算の対象となってきていた。従来の分光計測と比較して1ケタ以上高い精度で回転定数を決定し、計算との精密な比較を可能とした。 2)メタン2量体:炭化水素に関する分子間相互作用を考える上での最も基本的なモデル系であるが、従来、分光学的研究例はなかった。錯体内でのメタン分子の内部回転に由来する極めて複雑なスペクトルを与えるが、ハンガリーの理論グループとの共同研究によって、ほぼ全てのピークの帰属に成功した。 3)プロピレン2量体:C-C単結合とC=C二重結合を有する最小分子の2量体であるが、分光学的研究例はなかった。実験的に最安定構造を決定した。 4)エチレン2・3量体:従来の分光計測よりも高い精度で分光定数を決定した。また、2量体ばかりでなく3量体を観測できたことは、本手法の広範囲な適用性を示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績に記載の通り、我々が独自に開発した「量子波束イメージング分光」を適用することにより、さまざまな分子錯体について回転スペクトルの観測を実現できた。特に、他の分光手法では観測が困難であり、実際にこれまで分光計測の報告例がない、メタン2量体やプロピレン2量体のスペクトル観測に成功し、その解析結果から最安定配置や錯体内ダイナミックスを明らかにしたことは、「量子波束イメージング分光」の威力を明示するものと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
以下の3つのプロジェクトに取り組む。 1)これまでは同一分子から構成される2量体の回転スペクトルの観測にもっぱら取り組んできた。本年度は、異なる2分子から構成される錯体のスペクトル観測にも挑戦する。 2)「量子波束イメージング分光」は回転スペクトルの観測に威力を発揮してきたが、より早い時間領域でのイメージの時間発展に着目することにより、分子間振動に関する情報も得られると期待される。実際に、予備的な観測結果が得られている窒素2量体に対して、詳細な検討を行う。 3)これまでは中性の安定分子およびその分子錯体についてもっぱら研究を行ってきたが、分子イオンの回転スペクトルの取得に取り組む。そのため、イオンの効率的な生成、質量分析によるイオンの選別、ならびに、イオンの冷却が行えるように、現有の真空チャンバーの改良を行う。その上で、N2+のような簡単な分子イオンを手始めに、クラスターイオンの回転スペクトルの測定という世界初の研究成果の実現を目指す。
|
Causes of Carryover |
請求額と実際の使用額に極めてわずかの差額(208円)が生じたため。 翌年度分の助成金と合算して使用する。
|
Remarks |
第16回分子科学討論会にて分子科学会優秀ポスター賞受賞、2022年度日本分光学会年次講演会にて若手講演賞受賞、第22回分子分光研究会にて優秀講演賞受賞(2件)
|