2023 Fiscal Year Research-status Report
就労定着における障害者と企業との合理的配慮に関する対話プロセスの類型化の試み
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22K18546
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小澤 温 筑波大学, 人間系, 教授 (00211821)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 就労定着支援 / 対話 / 合理的配慮 / 学習する組織 / メンタルモデル / 共有メンタルモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は以下の3点である。研究1「障害者の職場定着に影響を与える合理的配慮をめぐる『対話』プロセスと定着サポートに関する理論的整理と仮説検討」、研究2「障害者雇用の定着率の高い企業・支援機関における合理的配慮をめぐる『対話』プロセスと定着サポートの実証的分析」、研究3「障害者の定着支援における合理的配慮をめぐる『対話』プロセスの類型化と妥当性検証 」 2023年度は主に研究2について国内外にて取り組んだ。国内の定着率の高い障害者雇用企業の障害者・担当者を対象とした半構造化面接調査を実施しながら、「学習する組織(Senge1990)」の5つのディシプリンの枠組みから質的データ分析を行った(12事業所)。その結果、合理的配慮をめぐる対話を通して、障害者と企業(担当者も含む)がお互いの【メンタルモデル】を知り、それを尊重しながらも、共有メンタルモデルを形成し、組織が目指す成果を出せるようにしていた(【共有ビジョン】)。障害者と企業が互いの【メンタルモデル】を理解することは、相互信頼の構築と組織で成果を出すために必要不可欠な要素であり、この要素へのアプローチが重要であると考える。さらに、障害者が戦力となり、職場定着する企業は『学習する組織』を体現していると考えられる。 また、対話の実践と研究結果が豊富なフィンランドとデンマークの関連機関11ヶ所に対して、「対話」の基本原則や要素、「対話」を重視した就労支援について半構造化面接調査を実施し、ミクロ・メゾ・マクロ的な視点からまとめた。両国での取り組みは、社会的背景、文化的背景、法制度等により、コミュニティづくりや就労支援が戦略的になされ、実践を統制し機能させているメゾ的位置付けの機関(コミュニティセンター、病院、就労支援機関等)が主体性を持って活動している点が日本と大きく異なっていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、主に研究2に関して12ヶ所の障害者雇用企業に対して実施した半構造化面接調査を行い、「学習する組織(Senge1990)」の5つのディシプリンの枠組みから質的データ分析を行った。その結果の一部についてアジア知的障害会議(AFID)にてポスター発表を実施した。調査数は計画よりも少なかったが、調査によって新たな知見を得ることができた。2024年度は、さらに調査と分析を行い、国際知的・発達障害学会(IASSIDD)にてポスター発表を行う予定である。また、研究2では、フィンランドやデンマークのコミュニティセンターや就労支援機関等11ヶ所に対して、半構造化面接調査も実施した。2024年4月にはその成果発表を行う予定である。2024年度は、研究1と2で得られた結果をふまえて、研究3の「対話」プロセスの類型化と妥当性の検証を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、研究1「障害者の職場定着に影響を与える合理的配慮をめぐる『対話』プロセスと定着サポートに関する理論的整理と仮説検討」において、国外文献をもとに生成した仮説をまとめる。 研究2「障害者雇用の定着率の高い企業・支援機関における合理的配慮をめぐる『対話』プロセスと定着サポートの実証的分析」においては、さらに国内の定着率の高い障害者雇用企業や就労支援事業所への半構造化面接調査(障害者・担当者を対象)を15件程度行い、データを分析する。また、定着率での優良企業1社に対して、実際に働く現場に入り、2回程度の参与観察や追加面接調査を実施する。さらに4月には研究者、学生、障害者雇用・就労担当者等を対象に海外調査の成果発表を行い、8月には国際知的・発達障害学会(IASSIDD)にてポスター発表の予定がある。 研究3「障害者の定着支援における合理的配慮をめぐる『対話』プロセスの類型化と妥当性検証 」については、研究1と2を踏まえて類型化を行い、障害者の定着率の高い企業担当者(20名程度)に面接調査を実施、類型およびその類型の内容に関しての妥当性を検証する計画である。
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Causes of Carryover |
2023年度は主に研究2について国内外にて取り組んだ。国内の定着率の高い障害者雇用企業の障害者・担当者を対象とした半構造化面接調査を実施しながら、「学習する組織(Senge1990)」の5つのディシプリンの枠組みから質的データ分析を行った(12事業所)。その結果、合理的配慮をめぐる対話を通して、障害者と企業(担当者も含む)がお互いのメンタルモデルを知り、それを尊重しながらも、共有メンタルモデルを形成し、組織が目指す成果を出せるようにしていたことを明らかにした。 2022年度に実施できなかった欧米諸国への調査は、対話の実践と研究結果が豊富なフィンランドとデンマークを訪問し、関連機関11ヶ所に対して、「対話」の基本原則や要素、「対話」を重視した就労支援について半構造化面接調査を実施し、ミクロ・メゾ・マクロ的な視点からまとめた。デンマークとフィンランドの訪問に関しては当初2名の研究協力者の派遣を予定していたが1名の派遣に変更したことから、2023年度の予算で変更が生じた。ただし、2024年度に研究成果を国際学会などで発表を計画していることからその予算に振り替える予定である。
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