2022 Fiscal Year Research-status Report
Development of imaging technique for hydration bonding and shell distributions in intracellular solution, which will contribute to incurable disease detection using sweat and urine
Project/Area Number |
22K18774
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 洋平 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00344127)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
Keywords | ラマン分光法 / ラマンスペクトル解析法 / ラマン散乱光イメージング法 / ラマン散乱光イメージ解析法 / 水分子動態 / イオン動態 / 活性酸素 / 難病 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本で指定されている330を超える難病の効果的な治療法は5%にも満たないのが現状である。細胞内液や細胞外液には多種のイオンが存在し、近年、病と特定イオンとの関係が明らかとなってきている。水分子動態はイオンの影響を直接受けるが、汗や尿の殆どを占める水分子動態そのものの直接かつ非侵襲計測が可能となれば、難病の画期的な診断法として期待できる。本研究では、理想的な結晶構造を有し自家蛍光の無いフッ化カルシウム基板を採用して、ノイズの影響を極力受けない、イオン介在による水分子からの微弱なラマンスペクトルの取得を行う。細胞内液や細胞外液に存在するイオンを模擬した電解質溶液、および過酸化水素を選定し、過酸化水素の影響下における、水分子およびイオン動態の解明を行う。多くの難病に関する研究では、細胞内に存在する微量な過酸化水素により発生する活性酸素が、要因の一つではないかと示唆されている。本年度は、下記の点に焦点を絞り、研究を遂行した。 1.過酸化水素は、水分子のOH伸縮に顕著な影響を及ぼすことは知られていたが、本研究では、イオン介在による水分子のOH伸縮への、過酸化水素の影響を実験的に初めて明らかにした。具体的には、イオン周りの水分子の水素結合状態が変化し、その変化量が過酸化水素濃度に依存していることが明らかとなった。特に過酸化水素濃度1 mol/Lを超える場合と、1 mol/L以下では、変化状況が異なることから、過酸化水素と水分子との間で形成されるクラスター構造の違いに依存していると推測できる。 2.細胞膜極近傍における水分子およびイオン動態の解明を想定して、全反射ラマン顕微法(ラマン分光法およびラマン散乱光イメージング法)の開発を行い、界面極近傍における、イオン周りの水分子の水素結合状態、更にイオンに引き寄せられる水分子数を明らかにした。(但し、過酸化水素は混入していない。)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
世界的な新型コロナウィルス感染症の蔓延により、実験に必要な機器や部材がかなり不足していたため、納入にかなりの時間を要したり、また納入されなかった部材があり、計画通りの実験的研究を遂行することが非常に困難であった。特に、フッ化カルシウム基板が不足していたため、石英ガラスを用いて実験を行っていた。イオン介在による水分子からの微弱なラマンスペクトルに影響を及ぼす様々なノイズの特定は、既に行っていたので、石英ガラスを用いた際のノイズ低減法を、今回、新たに確立することができ、再現性を担保できる実験を遂行することが可能となったが、長い時間を費やすこととなった。その後、得られたラマンスペクトルに、国内外の過去の研究で提案されてきた解析法を適用して物理的解釈を試みたが、過酸化水素が介在するラマンスペクトルに対しては、論理的かつ統一的な解釈が困難な結果しか得られなかった。そこで、本年度は、一つひとつの実験の再現性を検証し、新たな解析法の開発に長い時間を費やすことを決意したため、進捗状況が遅れた。特に、長い時間を費やしたのは、イオン介在による水分子のOH伸縮への、過酸化水素の影響を定量的に把握する解析法の開発であった。古典化学や、過去の国内外の研究においても、過酸化水素、水分子とイオンとの物理的関係を対象とした実験的および数値解析的研究が皆無であったため、独自にゼロから解析法を開発する必要があった。当初は、過酸化水素の濃度依存性は考慮する必要はないと考えていたが、過酸化水素と水分子との間で形成されるクラスター構造の影響を反映した解析法の開発に成功した。
|
Strategy for Future Research Activity |
汗や尿に含まれる水分子およびイオンの動態を解明し、難病との因果関係を明らかにするためには、イオン周りの水素結合状態、水素結合エネルギー、そしてイオンに引き寄せられる水分子の数との物理的関係、そして本研究で選定した過酸化水素の影響を明らかにする必要がある。更に、それぞれの空間分布を取得し、例えば、あるイオン周りに存在する、水分子の水素結合エネルギーが減少し、引き寄せられる水分子の数が減少すると思われたが、過酸化水素の影響により増加する領域が存在し、これが細胞内の活性酸素発生の要因となる、という知見を得ることが、本研究の最終目標である。そのために、ラマン分光法から得られたラマンスペクトルの新たな解析法、そしてラマン散乱光イメージング法から得られたラマン散乱光イメージの新たな解析法の開発を行う。
|
Causes of Carryover |
世界的な新型コロナウィルス感染症の蔓延により、実験に必要な機器や部材がかなり不足していたため、納入にかなりの時間を要したり、また納入されなかった部材があり、計画通りの実験的研究を遂行することが非常に困難であった。本研究の最終目標である、イオン周りの水素結合状態、水素結合エネルギー、そしてイオンに引き寄せられる水分子の数との物理的関係、そしてそれぞれの空間分布を取得するため、再現性を担保した実験を繰り返し(薬品の購入)、得られたラマン散乱光イメージから、イオン周りの水素結合状態、水素結合エネルギー、そしてイオンに引き寄せられる水分子の数の空間分布の抽出可能な、新たな解析法の開発(電子データ保存)を行う。
|