2022 Fiscal Year Research-status Report
生体音のモデル構築と分離ベクトルの最適化による生体音抽出システム
Project/Area Number |
22K18778
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 寿浩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80262111)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 生体音 / 体導音 / 非接触計測 / 非侵襲計測 / マイクロフォンアレイ |
Outline of Annual Research Achievements |
生体音の1つである心音のモデル構築および心音抽出システムの開発を行うとともに,計測用デバイスの開発を行った. 心音のモデル構築については,心音の主要成分であるⅡ音のモデル化を行った.具体的には,既存の弁音モデルを拡張(心臓の解剖学的・生理学的要因に起因する制約条件を課して重畳)させることで,大動脈弁音と肺動脈弁音という2つの弁音から構成されるⅡ音を,4個のパラメータ(各弁音の主要周波数および発生タイミング)をもつ時間信号モデルで表現することに成功した. 心音抽出システムの開発については,Ⅱ音のパラメータと分離ベクトルを同時に最適化することで,計測音からⅡ音を抽出するシステムを開発した.具体的には,マイクロフォンアレイによるmチャネルの計測音に対し,4個のⅡ音パラメータと要素数mの分離ベクトルを,出力音とモデル音の誤差を損失関数として同時に最適化(計測音に含まれる音のうち最もⅡ音モデルに近い音を探索)する,という信号処理フローを確立した. 計測デバイスの開発については,16チャネルの同時計測が可能なマイクロフォンアレイデバイスを作製した.さらに,モニタリング対象を人間だけでなく伴侶動物にまで広げるため,首輪型の体導音計測デバイスも作製した.首輪での体導音計測に際し,被毛による体導音の流出および環境音(ノイズ)の流入という課題が明らかとなった.これに対し,被毛越しでも体導音を計測可能なマイクロフォン(体導音マイク)を開発した.試作した体導音マイクは大きく2つの構造(中間体と密閉空気室)から成り,中間体では,動物の体表に対して音響インピーダンスを整合させることで体導音を体表から中間体へ効率良く伝播(4 dB増幅)させるとともに,ノイズである空気伝播音を26 dB減衰でき,密閉空気室では,聴診器に似た空間的構造により,中間体まで伝播した体導音をさらに19 dB増幅できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り,心音の時間的特徴および周波数的特徴を基に心音のⅡ音のモデル構築を実施したが,心音のもう一つの主要成分であるⅠ音を含む心音全体のモデルおよび他の生体音のモデル構築については次年度も継続した取り組みが必要である.一方で,次年度に取り組む予定であった分離ベクトルの最適化手法に関しては基本となる信号処理フローの開発を終えているほか,実環境での実証実験用デバイスの開発も終えることができており,全体としてはおおむね順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に構築したⅡ音モデルをさらに拡張し,僧帽弁音と三尖弁音から成るⅠ音を含む心音全体のモデル化を行う.心音全体のモデルには,15~20個のパラメータが必要と考えているが,これはⅡ音モデルの4倍以上である.そのため,心音モデルパラメータと分離ベクトルの同時最適化にかかる処理時間の急増や局所解問題に陥ることが予想される.これに対し,differential evolution等の大域的最適化手法を活用・改良し,心音モデルに適した最適化アルゴリズムを検討し,実用的な心音抽出システムの開発を推進する.
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Causes of Carryover |
当初計画ではデータロガーと計算機から成る計測系の試作を予定していたが,これには構築した生体音モデルに適した設計が必要である.そのため,Ⅰ音を含む心音全体のモデル構築および他の生体音のモデル構築を次年度に繰り越したことに伴い,本計測系の試作を次年度に繰り越した.
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