2023 Fiscal Year Research-status Report
長期にわたる暗所従属栄養に適応したシアノバクテリアの光合成喪失の進化プロセス
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22K19146
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
藤田 祐一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80222264)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井原 邦夫 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 准教授 (90223297)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / 光合成 / 適応進化 / ゲノム解析 / パートナースイッチングシステム / 研究室内進化実験 / 二成分制御系 |
Outline of Annual Research Achievements |
寄生植物や菌従属栄養植物に代表されるように、光合成生物の異なる系統で光合成能力の喪失現象が多数観察されており、このことは光合成生物が自然環境下で 光合成能力を喪失する進化が頻繁に起きていることを示唆している。しかし、光合成能力が失われるような進化を直接観察した報告はない。暗所でもグルコースを利用して従属栄養的に生育できる能力をもつシアノバクテリアLeptolyngbya boryanaを暗黒下での従属栄養条件下で長期培養(6~49ヶ月)することにより得られた暗所適応株のゲノム解析を進めている。また、1993年に単離したオレンジ色を呈する暗所適応株(BR1-0)を暗所で継代培養を続けている。この系統では継代開始から8年後(BR1-8)および22年後(BR1-22)の段階で凍結保存しており、これらを復活させ、ゲノムを調製し、暗所適応に伴う変異蓄積を継時的に追跡することが可能である。このBR1系統では、光合成生育能を喪失したのは最初のオレンジ色の株として単離された段階であり、その原因変異は、二成分制御系のレスポンスレギュレータRpaBの1アミノ酸置換であることがわかった。先の最長49ヶ月の暗所培養による暗所適応株の結果では、パートナースイッチング系で作用するPP2Cホスファターゼへの変異が高い頻度で生じていた。これらの結果を合わせると、微小進化実験は、転写制御系の変異が光合成喪失に至る進化の最初の一歩となることを示唆している。さらに、BR1系列の時間軸に伴う変異蓄積は、光合成を必要としない環境における光合成生物の進化に関する初めての具体的事例となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オレンジ色を呈する暗所適応株(BR1-0)には5箇所の変異が生じていたが、これらの中で光合成生育の喪失の原因となった変異を特定するために、それぞれの変異部位を含む約2 kbの野生型ゲノム断片をPCRで増幅し、得られた断片を連結したベクターによるBR1-0の形質転換を行い、光合成生育の回復を指標にスクリーニングした。その結果、LBDG_00060の断片で形質転換を行った場合のみ光合成的に生育する緑のコロニーが出現した。LBDG_00060は、二成分制御系のレスポンスレギュレーターRpaBをコードしており、シアノバクテリアにおいて必須の制御系と考えられている。BR1-0の形質をもたらす原因変異はRpaBにおいて一アミノ酸置換G94Dを引き起こす1塩基置換であった。この塩基置換をあらためて野生型に導入した結果、BR1-0とほぼ同じオレンジ色のコロニーが得られ、光合成的生育能を喪失しており、形質がBR1-0とほぼ一致していた。このことは、RpaBの一アミノ酸置換G94Dが光合成生育の喪失をもたらすことを明確に示している。また、この遺伝子の欠失変異株の単離も試みたが、そのような変異株を単離することはできなかった。また、BR1-0及びD94Gを有する変異株は、暗所での従属栄養生育が大幅に向上しており、このことは、RpaBは単に光合成生育に関わる遺伝子群のみならず、暗所従属栄養生育に関わる遺伝子群を含めたグローバルな転写制御に関わっていることを示唆している。これまで広く用いられてきたほとんどのモデルシアノバクテリアは、暗所での従属栄養能を欠いているため、このような変異を見出すことがむずかしいことから、L. boryanaは光合成喪失に至る進化を追跡するための理想的な新たなモデルシアノバクテリアとなりうる。
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Strategy for Future Research Activity |
親株からBR1-0への進化過程で光合成生育能を失う形質をもたらした原因変異は、RpaBの一アミノ酸置換を引き起こす一塩基置換であることがわかった。この変異が生じた後の約30年間の暗所従属栄養条件下で生育を継続する中でどのような変異が蓄積していったのか、変異蓄積プロファイルを作成する。特に、これらの中間状態の暗所適応株のRpaBを野生型に戻すことで、光合成生育が回復するのか確認することにより、暗所従属栄養条件下での進化において、さらに直接的に光合成生育を喪失させる変異が生じているのかどうか、確認する。また、L. boryanaにおいてRpaBが直接発現を制御しているターゲット遺伝子について情報を得る必要がある。先の研究で見出した、パートナースイッチングシステムを構成するホスファターゼRsbUの変異が光合成生育能の大幅低下をもたらすということを考え合わせると、光合成自体に直接関わらない制御系の遺伝子への変異が、光合成の喪失につながる初期変異となるという新しい視点をもたらしている。これらの現状を踏まえて、今後、以下のように研究を推進することを策定している: I. RpaBが制御するターゲット遺伝子群の特定 RNA-seq解析を通して、RpaBが制御するターゲット遺伝子群を特定し、どのような転写プロファイルにより光合成生育能が失われ、従属栄養生育能が促進されるのかを明らかにする。 II. BR1-0系列の擬似復帰変異株の解析 BR1-0から光合成生育を回復した擬復帰変異株をこれまでに5株単離した。これら擬似復帰変異株のゲノム解析を行い、サプレッサー変異を特定する。 III. 変異蓄積プロファイルの作成 BR1系列の各段階での適応株に対してRpaBを野生型に復帰させることで、光合成を必要としない環境における変異蓄積プロファイルの具体例とする。
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Causes of Carryover |
新たに擬似復帰変異株を単離したことでそのゲノム解析が今後行うべき重要な実験となったことに加え、光合成能を失ったBR1-0とその原因遺伝子欠損株のトランスクリプトーム解析を行う重要性が高まったことから、ゲノムリシーケンスおよびRNA-seqを行うこととし、そのために次年度使用額を利用することとした。
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