2023 Fiscal Year Research-status Report
実験室進化から紐解く抗ウイルス免疫打破株の出現と耐性機構
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22K19183
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
兵頭 究 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (80757881)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 植物ウイルス / アブシジン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
アブシジン酸 (ABA) は、植物の発芽調整など、分化・発生において重要であるのみならず、植物が乾燥をはじめとする非生物ストレスに順応する上でも中心的な役割を担う。さらに、ABAは植物の抗ウイルス免疫を誘導し、広く植物ウイルス感染を抑制することが近年示唆された。すなわち、ウイルス病害を含む様々な農業上の問題解決に向けてABAの有効活用が期待できる。しかしながら、ABAによるウイルス感染抑制機構の詳細は明らかでなく、ABAの農業利用に向けて、その解明が必要である。 植物RNAウイルスの一種 red clover necrotic mosaic virus (RCNMV) とベンサミアナタバコのモデル実験系を用いて、ABAが確かに抗ウイルス活性を示し、ウイルス感染を顕著に阻害することを確認した。また昨年度の成果より、ABAはウイルス複製より後期のステップを阻害する可能性が示唆された。これまで、ウイルス感染時における宿主ABA経路の応答は明らかでなかった。遺伝子発現解析より、RCNMV感染ベンサミアナタバコでは、ウイルス接種葉、全身感染葉ともにABA応答遺伝子の発現が顕著に上昇することが明らかとなった。本結果は、宿主植物はウイルス感染に応答し、ABA経路を活性化することで抗ウイルス免疫を発揮する可能性を示唆する。一方で興味深いことに、ABA合成経路の鍵遺伝子NCED3の発現はRCNMV感染植物で顕著に減少した。本結果は、RCNMVがABA合成を抑制する可能性を示唆しており、宿主ABA合成経路を標的としたウイルス側のカウンターディフェンス戦略の存在が浮かび上がってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アブシジン酸の抗ウイルス機構における分子メカニズム解明に向けて前進している。加えて、ABA合成経路を標的としたウイルス側のカウンターディフェンス戦略の存在も示唆され、ABAを介した植物ーウイルス間相互作用の解明に向けて順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
ABAによるウイルス感染抑制機構の詳細を明らかにするため、細胞間移行などのウイルス感染後期ステップや抗ウイルス免疫に対するABAの機能を解析する。また、植物がどのウイルス因子を認識しABAを介した抗ウイルス免疫を活性化するのか、ウイルスがどのようにして宿主ABA合成系を抑制するのか、それらの分子機構を一過的発現系を用いて解析する。
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Causes of Carryover |
研究費をウイルス解析や遺伝子発現解析のための分析試薬・分子生物学試薬および消耗品の購入に使用する。当初予定していた研究計画の一部を次年度以降に行うこととなり研究費の一部を繰り越すが、研究課題全体としは順調に進展しており、次年度も実験実施計画に従い研究を推進する。
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