2022 Fiscal Year Research-status Report
Evolutionary engineering of sesquiterpene synthases from basidiomycetous fungi
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22K19212
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
一瀬 博文 九州大学, 農学研究院, 准教授 (00432948)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | セスキテルペン合成酵素 / 担子菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「生物は不都合な酵素活性を封印しながら進化した」という独自の仮説に基づき、「封印された酵素が逆進化すればユニークな機能を発現する」ことを実証してモノ創りバイオ技術に新しいコンセプトを提案する。具体的には、木材腐朽担子菌(キノコ)に由来するセスキテルペン合成酵素(STS)をひとつの実験例として、(i) ゲノムから転写されない、(ii) 転写されても正しく翻訳されない、(iii) 翻訳されても酵素活性を示さないSTS群を遺伝子工学的に改変して酵素機能の人為的発現を目指す。 本年度は、担子菌Postia placentaおよびPhanerochaete chrysosporiumに由来する「ゲノムから転写されない休眠遺伝子」を標的とした酵素活性の復元を試みた。これまでに転写が確認されていないSTSのゲノムDNA配列を調製し、イントロン領域を人為的に除去して得たcDNAや、糸状菌Aspergillus nidulansに形質転換して得られたcDNAを用い、これらのSTSを酵母に異種発現させて酵素活性を追跡した。一連の研究から、P. chrysosporiumに由来する1種のSTSにおいてセスキテルペン骨格分子を産生させることに成功し、dauca-4(11),8-dieneの産生を可能とした。同化合物を与えるSTSは知られているものの、dauca-4(11),8-dieneおよびその誘導体の生物活性に関しては不明な点が多く、本研究で獲得した遺伝子およびその産物を利用した有用物質合成に興味がもたれる。一方、P. placenta STSの酵素活性復元には至っておらず、STS異種発現に利用する宿主微生物に変更を加えるなどの改良を施して目標達成を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、①ゲノムから転写されないSTS、②転写されても正しく翻訳されないSTS、③翻訳されても酵素活性を示さないSTSを対象に、それぞれ異なった実験手法で酵素活性の復元を目指している。初年度においては、①ゲノムから転写されないSTSを対象とした検討を進め、P. chrysosporiumに由来する1種のSTSにおいて酵素活性を得ることに成功している。一連の検討の中で、遺伝子組換え実験を迅速に行うためのプラスミドベクターを構築し、酵母Saccharomyces cerevisiaeおよび子嚢菌Aspergillus nidulansを利用した酵素発現システムに改良を施すなど、②転写されても正しく翻訳されないSTS、③翻訳されても酵素活性を示さないSTSを対象とした検討を、次年度以降に速やかに開始することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、「転写されても正しく翻訳されないSTS」および「翻訳されても酵素活性を示さないSTS」を対象とした酵素活性の復元を目指す。 先行研究において、P. placentaに由来する転写後に異常なスプライシングを受けて不活性化する3種のSTSを明らかにしている。当該遺伝子群は、エクソン/イントロン境界領域が変異したフレームシフト遺伝子であり、正常なSTSの配列を参考にしてフレームシフトを解消することが可能である。予測されるcDNA配列を得て、酵母や子嚢菌に形質転換して酵素活性の復元を目指す。 また、正しく転写・翻訳されるものの、セスキテルペンを合成できない5種のSTSが存在することも示している。これらは、酵素アミノ酸配列に「僅か」かつ「重大」な変異が導入されて触媒機能を失った遺伝子であると予想され、当該STSは変異箇所の僅かなアミノ酸置換によって酵素機能が復元すると予想される。当該遺伝子群と高い配列相同性を示す活性型STSとのドメインシャッフリングを施し、機能喪失に至った変異箇所を酵素ドメインレベルで決定する。 一連の検討において、新規なセスキテルペン骨格分子が産生されると予想している。得られた化合物は、詳細な構造決定を進めるとともに生物活性評価を加えて休眠するSTSの利用を促進する。
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Causes of Carryover |
初年度研究においては、得られるセスキテルペノイドの構造決定を進める予定であったが、構造決定に要する十分な量の試料を得るには至らなかった。以上の理由により、構造決定に要する経費が予想額を下回り、次年度使用額が発生した。次年度には、大型培養装置を導入して実験的問題を克服する予定であり、初年度に予定していた構造解析実験を含めた当初実験計画を完了できる。
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