2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K19282
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
久米田 博之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 学術専門職 (00399966)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姚 閔 北海道大学, 先端生命科学研究院, 名誉教授 (40311518)
尾瀬 農之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (80380525)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | IDR / 天然物生合成 / ポリエーテル / NMR / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
立体構造を形成しないIDPとして特に研究が進んでいる蛋白質は,高等生物シグナル伝達系や転写翻訳系に多く含まれ,他の蛋白質との相互作用時に過渡的部分構造形成をおこなうものも多い。一方で,ポリペプチド鎖の大部分がIDPで構成される酵素はこれまで報告が無い。天然に存在するポリエーテル化合物は,多様かつ強力な生物活性を示し,産業応用や細胞生物学への利用が多く見られる。これらのポリエーテル化合物は、テトラヒドロフラン環やテトラヒドロピラン環が多くの不斉点を介し連結されており,構造多様性はエーテル環の数や順序,大きさが決定している。ポリエーテル骨格の構築機構は,鎖状ポリオレフィン前駆体がエポキシ化され,引き続き位置選択的なエポキシド開環反応によりポリエーテル骨格が連鎖的に構築される。私達は,monensin生合成をモデルケースとしてポリエーテル骨格構築機構の解明に取り組んできた。Monensinの場合,その骨格を構築するために3 回の5-exo 酵素環化反応が必要である。これまでポリエーテル天然物生合成経路に存在するエポキシド開環エーテル環化酵素はIDP型の酵素であることを提唱し,構造形成機構や存在意義の解析を進めてきた。結晶構造解析,1H-15N HSQC (NMR), CD, DSC, Native-MSを組み合せ,モネンシン生合成経路中に存在する蛋白質のうち,1つは酵素活性を持たず,もう一方の構造形成を補助するシャペロン様分子であることを示すことができた。一般的にポリエーテル環化反応進行のためには,長大な基質を収納するポケットが必要であり,また,環化反応をうける基質のエポキシドおよび水酸基周辺の構造変化に対応できる柔軟な活性部位が必要である。我々のペア型酵素仮説を使用すると,酵素がこういった課題を解決するために採用している戦略を説明できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
組換え発現したMonBI,MonBIIおよびMonBI-MonBII連結蛋白質の性状を,種々の物理化学的手法を用いて観測した。二次構造を比較するために,円二色性分光計を使用した各タンパク質のCDスペクトルを測定の結果は,MonBIと比較して,MonBIIは溶液中において二次構造含有量が極めて少ないことが示された。MonBIIをゲル濾過分析すると,大きく4つのシグナルに分画でき,いずれも,二次構造含有量は少なかったが,シグナル3に相当するものは,ベータストランドの含有が見られた。またMonBI-IIのCDスペクトルは,MonBIの存在によってMonBIIの構造が安定化されることを示唆するものであった。MonBIの存在がMonBIIの立体構造に与える影響を追跡するため,ゲル濾過分画1 ー 4 をNMRで評価した。15Nで標識したMonBIIのゲル濾過画分のうち,シグナル1, 2, 4は14N MonBI存在下により構造形成が見られた。結晶構造同様,明確な立体構造を形成していると考えられる。4の分画は,構造形成をしていない領域が多いと判断し,何量体であるかを分析した。MonBIIが濃縮できない蛋白質であり,かつゲル濾過プロファイルのベースラインは様々な分子状態により上がっているため,SEC-MALSの適用が困難であった。Native-MSにより評価したところ,分画1,2,4では単量体の割合が高く,分画3では多量体も多く見られ,NMRによる構造形成の結果と併せて考えると,MonBIIが単量体で存在することが,構造形成に重要であることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,MonBIがどのような影響をMonBIIに及ぼすことが,MonBIIの活性発現を行う上で必要なのか具体的に説明できなかった。ここでの研究結果から,「不安定な活性担当分子MonBII型酵素の構造を,構造が強固なMonBI型分子が真横で骨格として支える」いう概念のペア型酵素の存在を提唱するに至った。「ポリエン-ポリエポキシド仮説」にしたがうと,もし,複数の環化反応を1つの活性部位でおこなううことができれば,ジッパースライダーのように環化反応が順次進行していく合理的なモデルを描くことが出来る。一般的にポリエーテル環化反応進行のためには(特に初期の環化反応),長大な基質を収納するポケットが必要であり,また,環化反応をうける基質のエポキシドおよび水酸基周辺の構造変化に対応できる柔軟な活性部位が必要である。我々のペア型酵素仮説を使用すると,酵素がこういった課題を解決するために採用している戦略を説明できる。生産菌に各種変異型環化酵素を導入した際の生成物生合成能の変化の解析を現在おこなっており,仮説を裏付ける結果となっている。また,配列情報を用いたバイオインフォマティクス解析により,ゲノム中でペアになっている酵素群の進化過程も追跡している。本仮説はほぼ完全に証明することができたため,一流紙に発表する。
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Causes of Carryover |
SPring-8における放射光X線結晶回折実験は,旅費が発生しない自動測定をおこなったが,今年度は難易度が高い測定実験があるため,実際に有人で測定するため,旅費を使用する。また,これまで,MonBI存在下におけるMonBIIの構造形成をNMRでモニターしていた。15Nラベル体のMonBIIだけで実験が完結したため,予定より消耗品代が少なかった。今年度は,基質アナログ存在下におけるMonBIIの構造形成をモニターする実験をおこなうため,ラベル体(2H, 13C, 15N)のMonBII調製や,基質アナログの調製に研究費を使用する必要がある。
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Research Products
(1 results)