2023 Fiscal Year Research-status Report
シングルセルレベルで微小環境から探る子宮筋腫の発育とその多様性のメカニズムの解明
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22K19603
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
杉野 法広 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10263782)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 俊 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (10534604)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 子宮筋腫 / シングルセル解析 / 微小環境 / 細胞間相互作用 / MED12変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
子宮筋腫は女性ホルモンにより発育するが,その感受性,腫瘍サイズ,細胞・組織構成等には多様性(個人差)がある。また,ドライバー変異であるMED12変異の有無により細胞・組織構成が異なる2つの筋腫サブタイプ(MED12変異を有するMED12(+)筋腫と有しないMED12(-)筋腫)が存在する。子宮筋腫では主となる平滑筋細胞の他に,線維芽細胞,免疫細胞や膠原線維等により微小環境が形成されており,この微小環境における細胞間の相互作用がサブタイプの差異を含めた筋腫の多様性に寄与すると予想される。したがって,これまでのバルクによる解析ではその多様性の本質に迫ることは難しい。そこで,本研究ではシングルセルレベルでの解析により子宮筋腫の発育と多様性のメカニズムを,微小環境を構成する細胞間の相互作用を通して解明することを目的として,まず,「1.MED12(+)と(-)筋腫検体において,シングルセルRNA シークエンス(scRNA-seq)により子宮筋腫の微小環境を構成する細胞集団を同定」し,さらに「2.異種移植モデルを用いて,筋腫の発育に伴った微小環境を構成する細胞集団の変化を調べ,発育に重要な細胞集団を同定」する。本研究は,これまでの「子宮筋腫は女性ホルモンで発育する」という機序に依存した薬物治療戦略から,「微小環境を構成する細胞間の相互作用」という新規の発育機序に基づいた分子標的治療へ戦略を大きく転換させる可能性がある。 令和5年度は,上記の研究項目1では,令和4年度から検討を継続していた子宮筋腫組織の単一細胞への分散法を確立した。研究項目2では,子宮筋腫の発育を再現できる唯一の実験系である異種移植モデルを令和4度中に確立し,令和5年度は,このモデルにより,再現性高く筋腫様の腫瘤が形成されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「1.MED12(+)と(-)筋腫検体におけるscRNA-seqによる子宮筋腫の微小環境を構成する細胞集団の同定」:令和5年度は,前年度から検討していた子宮筋腫組織を単一細胞へ分散する方法を確立した。一般に組織検体のシングルセル解析には,新鮮組織を単一細胞に分散して用いるが,子宮筋腫は膠原線維に富むため,酵素処理による一般的な方法での分散は困難だった。実際,他の研究グループの先行論文で子宮筋腫のシングルセル解析が報告されているが,組織分散の不備により平滑筋細胞と線維芽細胞がほとんど検出されず,in vivoが反映されていなかった。そこで,最近実用化された固定組織を用いたシングルセル解析における分散法(FLEX法)を検討した。急速凍結した子宮筋腫組織を細切し,固定した後,酵素処理と特殊な分散器を用いることで,固定組織を分散し,さらに核を有する組織片をFACSで回収するという工夫を加えることで,in vivoの細胞構成を反映した単一細胞を調整できた。このFLEX法とFACSを組み合わせた組織分散法の確立により,子宮筋腫組織におけるscRNA-seqの下地が令和5年度内にようやく整った。 「2.異種移植モデルを用いた,子宮筋腫の発育に伴い微小環境を構成する細胞集団の変化,および発育に重要な細胞集団の同定」:異種移植モデルは既に確立され,直ぐにも実験できる状況にあったが,組織分散法を含むscRNA-seqの確立が遅れたため,令和5年度中に予定したscRNA-seqまでは進めなかった。 これらの状況を踏まえ,現在の進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
「1.MED12(+)と(-)筋腫検体におけるscRNA-seqによる子宮筋腫の微小環境を構成する細胞集団の同定」:令和5年度では,FLEX法とFACSを組み合わせることで,in vivoの細胞構成を反映した単一細胞への組織分散法を確立し,子宮筋腫組織におけるscRNA-seqの下地が整った。令和6年度は,まず,MED12(+)と(-)筋腫検体におけるscRNA-seqデータを得て,そのデータについて,精度が充分であるかと細胞構成がin vivoを反映するかを,この分野の第一人者であり研究協力者の清木誠教授(山口大学)にも加わっていただき検討する。充分な精度とin vivoを反映することが担保されたscRNA-seqデータを用いて,令和6年度に予定している実験項目「3.子宮筋腫を構成する微小環境における細胞間相互作用をインタラクト-ム解析により具体的なリガンド-受容体系として抽出する」に進む。その結果,既知の細胞間の相互作用のみならず,未知の細胞集団が同定され,それらを含めた新規の細胞間相互作用が見出される可能性もある。 「2.異種移植モデルを用いた,子宮筋腫の発育に伴い微小環境を構成する細胞集団の変化,および発育に重要な細胞集団の同定」:令和5年度の研究によりscRNA-seqの条件が確立したので,令和6年度は,異種移植に用いる初代培養3日目の筋腫細胞,発育初期の筋腫として異種移植4週目の移植組織,および発育の進んだ筋腫として異種移植8週目の移植組織を採取し,scRNA-seqに供する。それらのデータを比較検討することで,発育過程における細胞構成の全体的な変化・動態を把握し,新規あるいは発育過程に特異的な細胞集団の同定を試みる。
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Causes of Carryover |
理由:令和5年度は,研究項目1におけるscRNA-seqでは,関連試薬の大部分がscRNA-seqを行う他の研究と共通しており,そちらの研究費で購入した試薬を使用したため「物品費」においてscRNA-seq関連試薬にあてた費用が残った。本年度中にscRNA-seqの外注を予定していたが,そこまで進まなかったため,「その他」においてRNA-seq外注の費用が残った。研究項目2で使用したNOD/Scidマウスの購入および飼育の費用は,このマウスを同様に使用する他の研究費で賄えたため,「物品費」のNOD/Scidマウスの購入費と「その他」のマウス飼育費が残った。また,国際学会の発表における旅費は他の研究費を使用したため「旅費」の費用が残り,論文投稿には至らなかったため,論文投稿費と英文校正費は使用されず残った。
使用計画:令和6年度は,研究項目1・2ともscRNA-seqを行うため,次年度使用金はscRNA-seq関連試薬の購入およびscRNA-seqの外注に使用する。また,研究成果を公表するため,国際学会の発表における旅費および投稿論文の英文校正費にも使用する。
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