2022 Fiscal Year Research-status Report
降水量を高時間分解能で復元するための、樹木髄の酸素・水素同位体比モデルの構築
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22K19854
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
香川 聡 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (40353635)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 多余子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70353670)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Keywords | 葉面吸水 |
Outline of Annual Research Achievements |
森林総合研究所苗畑で生育したスギ苗木において、頂端の成長過程を6月~10月の間に記録し、髄のおおよその形成時期を推定できるような苗木を育成した。これらのスギ苗木の髄の酸素・水素・炭素同位体比を約0.5mm程度の空間分解能で測定したところ、頂端から10cm程度の部分では、酸素および水素同位体比が1パーミル以上低くなる鋭いピークが観測されたが、それより下の部分の髄ではこのようなピークは観測されなかった。この結果は、貯蔵物質であるでんぷんや糖を温水抽出・有機溶媒抽出処理により取り除いた髄試料でも変わらなかった。以上のような結果が得られた理由としては、例えば、頂端から10cm程度の部分では、でんぷんや糖などの貯蔵物質の酸素同位体比は降水時の低い同位体比を反映しているものの、それ以下の部分では、貯蔵物質の酸素・水素同位体比が周囲の水により書き換えられた後のでんぷん・糖が細胞壁成分(セルロース・ヘミセルロース・リグニン)の形成に用いられたため、鋭いピークが観測されなくなった、といった原因が考えられる。最近の技術的ブレークスルーにより、樹木の葉・表皮および根それぞれに、重い酸素同位体を多く含む重水および重水素を多く含む重水のどちらか一方を吸収させた後、液体窒素により凍結して頂端分裂組織周辺の水の同位体比を調べることが、同位体の専門家でなくても行えるくらいに簡便になったが、今後はこれらの方法と組み合わせることにより、降雨時および非降雨時に形成される髄の葉面吸収水起源および根吸収水起源の酸素・水素の割合を明らかにし、これらの割合の変動(すなわち降水量・相対湿度の変動)が、髄(および髄付近の木部)の酸素・水素同位体比の変動とどう対応するのかを明らかにしていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
髄の酸素・水素同位体比については、頂端付近で見られた値が急激に低くなるピークが見られたが、我々の予想に反して、頂端より10cm以上下部の髄ではそのようなピークが見られなかった。一方、日変動の可能性のある炭素同位体比のピークが見られたので、日単位での降水量の復元に応用する可能性が開けた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、髄のおおよその形成時期が分かっているスギの苗木の髄の同位体分析を進めるとともに、スギ以外の樹種で髄の同位体比を測定し、より降水量などの古気候復元に適した樹種を探索する。
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Causes of Carryover |
同位体分析装置の故障により、同位体分析の一部を翌年度に繰り越す必要が生じた。
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