2022 Fiscal Year Research-status Report
Development of challenging new disease diagnostic methods using fast neutron beams
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22K19935
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 浩基 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (70391274)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 翼 京都大学, 複合原子力科学研究所, 特定准教授 (30804348)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 高速中性子 / 即発ガンマ線 / 疾患診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん等の病気の診断やリスク発見には、抗体、酵素、腫瘍マーカーの数値を血液・尿検査により取得し、基準値から大きく逸脱した際に精密検査、治療を行う指標としている。疑わしい疾患に対してはX 線などの放射線による精密検査が実施される。X 線は原子番号、すなわち電子密度に散乱、吸収する確率が依存しており、正常組織と腫瘍組織との判別が難しい。一方で、中性子は原子核の種類に依存して、散乱、吸収する確率が違うため、正常組織と腫瘍組織間に核種の違いがあれば識別して検出できる可能性がある。高速中性子は人体を透過する能力があり、エネルギーが高いため、原子核と非弾性散乱を起こすと、原子核を励起させる。それが基底状態に遷移する際に、核種に依存したガンマ線を即時に放出する。本研究では、高速中性子と原子核の非弾性散乱で放出されるガンマ線をイメージングすることで、がんなどの疾患を診断する手法について研究を進めている。 研究を進める上でまずがんに特異的に集積する元素のサーベイを実施し、モンテカルロシミュレーションによる人体を模擬した照射のシミュレーションを実施する。その後、シミュレーションの結果をもとに、原理実証試験を実施する予定である。本年度は元素のサーベイを行い、がんに対しては腎臓、前立腺、肺、肝臓、脳などに対して正常組織に対して差がみられる元素があることを確認した。また、がん以外にも、アルツハイマーなどに対しても特異的に集積する元素があることを確認することができた。 また、今年度は放射線輸送計算コードPHITS (Particle and Heavy Ion Transport code System)を用いた照射シミュレーションができる環境を整備し、人体を模擬したモデルによる計算を可能とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表的ながん種について、サーベイした結果を述べる。プラズマ発光分析を用いた組成の結果によると、腎細胞がんと正常腎にはAl,Ca,Cd,Cr,Cu,Fe,K,Mg,Mn,Na,P,Pb,Znの濃度の違いがあり、その中でもP-31が特に異なっている。腎細胞がんには630ppm 含まれており、正常腎は43ppmである。また興味深いのはがんのステージによっても、組成が異なる。P-31はステージ1よりもステージ4の含有率が11倍高いことが分かっている。Pbの含有率は232倍である。 また、中性子放射化法により肺がん及び正常肺のサンプルに対して様々な元素の含有率について報告があったが、オーダーで含有率が異なる元素はなく、多くてSeが1.9倍程度であった。また含有量がppmオーダーと少なく、高速中性子による即発ガンマ線の検出を行う際に、照射体系を最適化する必要があることが分かった。一方でKは1000ppmオーダーと含有率が多いが、正常肺との差は80%程度であり、画像化できる可能性がある。 これまでは増加する元素について検討してきたが、がんの種類によってはZnやRbのように減少する元素も存在する。増加する元素と、減少する元素の比を取ることで、検出感度を増加できる可能性がある。今後はさらに元素のサーベイを継続し、適応するがんの種類を増やすこととした。 高速中性子による即発ガンマ線の画像化には5MeV以上の中性子で10^7から10^10 (n/s)の中性子生成量が必要であると先行研究で報告がある。そこで、放射線輸送計算コードPHITSを用いて、30MeV陽子入射ベリリウムターゲットから放出される中性子生成量を評価した。定格の1mAの電流値で10^14(n/s)の中性子が生成することを確認した。また、本研究の照射場はエネルギーを低減させるために、180度方向の中性子の使用を考えているが、高速中性子による即発ガンマ線の画像を得るに十分な強度であることを確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度サーベイして明らかとなった疾患に対してPHITSを用いたモンテカルロシミュレーションを実施する。人体を模擬した水ファントム中に臓器、疾患部位を設定し、中性子ビームを照射することで放出される即発ガンマ線のエネルギースペクトルをガンマ線検出器位置において計算する。30MeV陽子をベリリウムターゲットに入射することによって、後方に放出される高速中性子を入射させる。本シミュレーションではコリメータサイズ、遮蔽、検出器体系、即発ガンマ線分布、中性子エネルギー、人体への被ばく量と検出限界値との相関関係を得ることにより、最適化する。 次に、最適化した体系を元に原理実証試験を実施する。使用する中性子源は京都大学複合原子力科学研究所に設置されているサイクロトロンベース中性子源を用いる。ビームポートに水ファントムを設置し、その周りに即発ガンマ線検出器を設置する。中性子ビーム上流及び陽子ビーム輸送系からのバックグランドガンマ線を遮蔽するために、検出器周りには鉛遮蔽体を設置する。エネルギー分解能がよく、効率も良いことから即発ガンマ線検出器には高純度ゲルマニウム半導体検出器を選択する。理想的には検出器を体の周りに設置するのが望ましいが、予算の関係上1台設置し、水ファントムを回転させてデータをとる体系とする。入射する中性子エネルギーはサイクロトロンのRadio Frequencey(RF)の信号をスタート信号とし、検出器のストップ信号との時間差の情報から測定する、飛行時間法を採用する。最後に研究の成果を取りまとめる。
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Causes of Carryover |
放射線輸送計算コードPHITSを用いたモンテカルロシミュレーションを実施するための計算用PCのスペックが向上し、当初予定していたスペックよりも計算効率があがったため、計算用PCの予算を減額することができた。一方で、令和5年度に購入を予定している半導体検出器の価格高騰が見込まれており、今年度の減額分を予算措置する予定である。
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