2022 Fiscal Year Research-status Report
著作者人格権侵害要件としての「著作物の類似性」判断基準に関する研究
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22K20095
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Research Institution | Aomori Chuo Gakuin University |
Principal Investigator |
鈴木 敬史 青森中央学院大学, 経営法学部, 講師 (40963765)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 著作者人格権 / 著作権法 / 類似性 / 人格的利益 / 同一性保持権 / 氏名表示権 / 公表権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、著作者人格権を「著作者の社会的利益」保護法制と再構成し、もって、その侵害要件の一つである「著作物の類似性」要件のあり方を再考することである。2022年度の研究成果はおおむね以下のとおりである。 まず、著作者人格権の中でも、あまり研究がなされてこなかった公表権につき、その保護法益を探求した。その結果、少なくともその一部において「著作者の社会的利益」保護法制として公表権を再構成することができることを明らかにした。加えて、かかる視座からすると、「著作者の同定可能性」という観点から「著作物の類似性」要件を柔軟に判断する必要があること、現行法の下でもこれを実現することが可能であることが示された。なお以上について、その研究成果の一部を「米国における著作物の第一公表の権利―学説の類型別観察による保護法益の抽出―」神戸法学雑誌72巻4号1頁(2023)において公表した。 またこれと関連して、「著作者の社会的評価」保護という観点から導き出された「著作者の同定可能性」という基準の具体的な適用に当たって、著作物の利用態様に照らしてどのように類型化されるかを検討した。その結果、「原著作物が、被疑侵害者の表現の中に取り込まれているか/独立して観念される状態にあるか」「被疑侵害作品において原著作者が誰か観念できる状態にあるか否か」という(少なくとも)2つ対立軸が上記類型化において影響を及ぼすことが明らかになり、かつ、単に「著作者の同定可能性」というのでは足りず、各類型ごとにより詳細な判断基準を設ける必要があるとの確証に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は研究初年度であり、研究環境の整備・立ち上げや、本研究内容のうちの基盤的検討に焦点を当てていたため、目立った成果を出すことができなかった。次年度は、本年度の蓄積を基に、上記「研究実績の概要」で示した内容の具体化を通じて成果を公表することを考えている。 また、本研究と関連する博士論文の公表に向けた作業を実施しているところ、近時の著作物利用環境の急速な変化に対応するために大部分にわたって改稿をする必要が生じたことも、本研究課題の進捗が遅れていることに影響した。博士論文の公表については、大学紀要における連載であれば次年度から開始し、あるいは、書籍による公表であれば次々年度の出版を念頭に準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記述べた通り、次年度は、本年度行った基盤的検討や類型化の指針をベースとして、具体的な「著作物の類似性」判断基準を提示すること、及び、条文の解釈論としてどのように実現することができるかを示すことをもって、本研究課題の取りまとめを行うことを予定している。 なお、申請時における本研究課題の一部をなす「著作物利用に係る認識を問うアンケート調査」については、研究期間の制約上困難であると判断し、実施しないこととする。もっとも、(現状予定される)一連の研究成果の説得性を高めるためには、上記アンケート調査の価値は高い。したがって、これを将来的な検討課題と位置付け、次年度中も、そのための諸準備を並行して実施する予定である。
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