2022 Fiscal Year Research-status Report
網羅的プロテオーム解析によるヒトの細胞種特異的リボソームタンパクの同定と機能解析
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22K20627
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山川 達也 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (20961197)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | リボソーム / リボソームタンパク質 / ヒト人工多能性幹細胞 / プロテオーム / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
リボソームは、遺伝子発現の最終段階であるタンパク質合成を担う細胞小器官であり、ヒトでは4種のリボソームRNA(rRNA)と80種のリボソームタンパク質(RP; ribosomal protein)で構成されています。80種のRPの量的な不均一性からなるリボソームの機能特異性は発見当初から提唱されていたものの長らくその真偽は不明でした。 近年の質量分析法の改良により、細胞種特異的なリボソームの機能差やそれを生み出すいくつかの要因が報告されています。しかし、リボソームの主要な構成要素であるRPの量的な差については主に酵母やマウスで確認されているものの、ヒト細胞での報告は限られています。そこで本研究では、当研究室で改良された新たな質量分析法を用いることで網羅的かつ定量的にヒト細胞種特異的なRPの同定とその機能解明を行いました。 細胞種特異的なRP同定のために7種のヒト体細胞を用意し、質量分析用のサンプル調製を行いました。これらを用いて網羅的なプロテオーム解析を行い、細胞種間で異なる量比を示すRPを同定していきます。これら7種の体細胞とは別に、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC; human induced pluripotent stem cell)から骨格筋を分化誘導し、複数のタイムポイントでのmRNA、及びタンパク質試料を回収しました。次世代シークエンサー、質量分析といった機器を用いたトランスクリプトーム、プロテオーム両面からの網羅的解析を行いました。 これらの解析を用いて、細胞種得意的、または分化誘導で変化するRPの同定を行います。これらの成果は、リボソームの機能不全を原因とするリボソー ム病に対する新たな病態解明の手がかりとなるだけでなく、リボソームの機能差による遺伝子発現制御という分子生物学における新たな分野を開くことが期待されます。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における主要な課題は、以下の3点です。1. 正常なヒト体細胞において、細胞種特異的なRPが存在するか。2. 各々の特異的RPが制御する遺伝子群は何か。3. ヒト多能性幹細胞及びそこから誘導される体細胞の分化過程での特異的RPの機能。 ヒト体細胞として、外胚葉由来の表皮角化細胞、アストロサイト、神経前駆細胞、中胚葉由来の線維芽細胞、脂肪由来幹細胞、内胚葉由来の前立腺上皮細胞、気管支上皮細胞の7種類の培養系を確立しました。細胞種間におけるRPの量比を調べるため、現在質量分析用のサンプル調製を行っています。 また、細胞種特異的RPの同定と並行して、各細胞種で積極的に翻訳されている遺伝子の解析も行っています。これは、細胞間でのRPの違いがリボソームの機能的な差を生み出し、特定の遺伝子の翻訳量を変化させ、細胞を特徴づけると考えられているためです。スクロースグラジエント法により翻訳が盛んに行われていると考えられるポリソーム分画を取得し、翻訳効率の高い遺伝子を絞り込んでいます。この分画サンプルおよび翻訳効率の算出に必要なmRNA-seq用のサンプル回収、調製も行っています。 さらに、hiPSCを用いて体細胞への分化誘導過程でのRP量がどのように変化するかの解析も行っています。研究所内の他のグループと協力し、hiPSCsから骨格筋細胞への分化誘導を行い、複数のタイムポイントでmRNAおよびタンパク質試料を回収しました。これらについて、mRNA-seqと質量分析による網羅的解析を行っており、現在はデータの解析段階です。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の第1課題である“正常なヒト体細胞において細胞種特異的な RPは存在するか”について、まだ明確な答えを出せていません。そのために、すでに培養系の確立、および細胞の回収が済んでいる7種の正常ヒト体細胞で網羅的なプロテオーム解析を優先して行います。質量分析用のサンプル調製については修得済みであり、所属グループにおいては液体クロマトグラフィー/質量分析(LC-MS/MS; Liquid chromatography mass spectrometry)を用いたプロテオーム解析の経験が豊富にあります。データ解析を含めた質量分析実験について、所属グループ内の質量分析チームとの連携を密にし実行に移していきます。 各細胞種で積極的に翻訳されている遺伝子の解析について、ポリソーム分画を取得するためのスクロースグラジエント法については習得済みですが、その後の解析手法であるリボソームシークエンス法については未修得です。そのため、本実験の習得や実施について所内の他研究室に協力を求め実行していく必要があります。また、mRNA-seq実験についてはすでに習得し、実際に実験を進めているので今後も解析を継続していきます。 hiPSCsからの分化誘導過程におけるRPの変化について、骨格筋分化においてはすでにmRNA、タンパク質の両者において網羅的解析を行い、解析の段階にあります。これらのデータから、hiPSCsでは発現の弱い骨格筋特異的なRP構成を明らかにします。同時にmRNAの発現データと比較することで、RPの中 でもmRNAとタンパク質の比が正比例しない、従来の研究では着目されていなかったRPの絞り込みを行います。
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Causes of Carryover |
申請段階では学会参加のための国内旅費を10万円で申請したが、実際の支出額としは8万5千円程度であったため差額が生じました。また、質量分析用の合成ペブチドについて複数社を検討した結果、想定していた額との差が生じました。
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