2022 Fiscal Year Research-status Report
進行方向の変更を要する曲走路をヒトが速く走るための動作の解明
Project/Area Number |
22K21235
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
広野 泰子 筑波大学, 体育系, 研究員 (00964347)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Keywords | 曲線軌道 / 3次元動作分析 / 左右非対称性 / ステップ幅 |
Outline of Annual Research Achievements |
短距離種目のなかでレース中に到達する走スピードが最も高い種目100m走と200mには、100m走ではスタートからフィニッシュまでが直走路であるのに対して、200m走はスタートから約120mが曲走路であるという違いがある。経時的に進行方向を変更しなければならない曲走路疾走では高い技術を要することが知られている。本研究の最終的な到達目標は、進行方向の変更を伴う曲走路をヒトが速く走るための動作の解明とした。曲率が同程度の曲走路に沿って走った場合、接地期に必要な進行方向の変更の大きさはステップ長の大きさに依存することから、研究開始時には曲走路をヒトが速く走るための動作はステップ長の大きさに応じて異なるという仮定を立てていた。しかし、本研究に先立って公認陸上競技会における200m走中の曲走路疾走動作を分析した結果、ステップ長や方向転換量には左右非対称性があり、競技者は曲走路に沿わずに蛇行しながら走っていること、その左右非対称性の程度には個人差がある可能性が示された。さらに、歩行における歩隔に相当する左右接地足の側方距離(本研究ではステップ幅と呼ぶ)と方向転換量の左右非対称性が正の相関関係をもつ可能性が示された。ステップ幅が大きくなると、走路内側である左脚の走路内側への傾きが小さくなる、あるいは右脚の傾きが大きくなることで脚の走路内側への傾きに左右非対称性が生じる。支持脚の姿勢が地面反力の方向を決定していると仮定した場合、脚の走路内側への傾きの非対称性によって方向転換量、すなわち走路内側方向の地面反力の大きさの左右非対称性が説明できると考えた。本研究では、まず、曲走路疾走における進行方向量の左右非対称性の程度が何によって決定されるのかを明らかにし、その後、左右非対称性の程度に応じて走スピードに影響する動作パラメータを検討することとした。2022年度は予備実験を実施しした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、予備実験の実施とデータ分析用プログラムを作成した。予備実験は、健常な成人8名による努力度80%程度の45m曲走路(曲率半径42m)疾走を対象とした。屋内に陸上競技場の走路として使われている合成ゴムマットを敷いて曲走路を設け、光学式モーションキャプチャおよび地面反力計を用いて、スタート後40m付近における身体特徴点に貼付した反射マーカーの3次元座標値および地面反力を測定した。本研究では、支持脚の姿勢が地面反力の方向を決定していると仮定した場合、脚の走路内側への傾きの非対称性によって方向転換量を決定する走路内側方向の地面反力の大きさの非対称性が説明できると仮説を立てている。支持脚の走路内側への傾きが大きい場合と小さい場合とを比較するために、予備実験では実験試技としてステップ幅が広い疾走と狭い疾走を設定した。曲走路の内側線よりも0.3および0.6m外側に2本の曲線を描き、ステップ幅の狭い疾走では2本の曲線の間を走るように、ステップ幅の広い疾走では2本の曲線を跨ぐようにと対象者に指示をした。接地時の支持脚の走路内側への傾き角度と走路内側方向の力積は条件間で有意差が示され、左脚ではステップ幅が狭い試技の方が脚の傾き角度と力積が大きく、右脚ではステップ幅が広い試技の方が脚の傾き角度と力積が大きかった。また、条件内の左右脚の力積を比較すると、ステップ幅が狭い試技では力積に有意な左右差が示されないのに対して、ステップ幅が広い試技では力積に有意な左右差が示された。以上より、対象者にステップ幅の程度を指示することで脚の傾き角度を調整できること、支持脚の走路内側への傾きの程度によって走路内側方向の地面反力の大きさの非対称性が説明できる可能性があることが確認されたことから、「(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は短距離競技者の曲走路疾走を対象として、身体特徴点の3次元座標値および地面反力を測定する。得られデータから、曲走路疾走における走路内側方向の力積の左右非対称性の程度に影響するパラメータを明らかにするとともに、走スピードに影響する動作パラメータは左右非対称性の程度によって変わるのか否かを検討する。なお、予備実験のように実験試技としてステップ幅が広い疾走と狭い疾走を設けた場合、実験試技数が増えて対象者への負担が大きくなることが懸念される。したがって、実験に向けて試技内容を再検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
デジタルビデオカメラ4台を新たに購入し、所属機関が保有するモーションキャプチャと併用して測定を行う予定であったが、本研究に先立って公認陸上競技会における200m走中の曲走路疾走動作を分析した結果を基にして実験設定を再考した結果、新たにビデオカメラを購入する必要がなくなったことが主な要因である。 次年度は本実験の実施や分析を行うためのモバイルワークステーションが必要となるため、その購入に充てる予定である。
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