2022 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of regulatory mechanism of liquid-liquid phase separation underlying synaptic plasticity
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21F21384
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
木下 専 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30273460)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
LIU PIN-WU 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2021-11-18 – 2024-03-31
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Keywords | シナプス / シナプス伝達 / シナプス可塑性 / 液-液相分離 / シナプス後膜肥厚 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに、シナプスにおいて受容体を含むタンパク質群の液-液相分離現象がシナプスの安定性や可塑性に関与していることを見出してきた。特に、学習におけるカルシウム流入が引き起こすシナプス内のナノスケール局在変化によるシナプス情報伝達の最適化プロセスにおいて、液-液相分離現象が果たす役割に注目している。このプロセスはカルシウムに応答し可塑的な立体構造変化を見せるタンパク質CaMKIIが中心的役割を果たしている。 そこで本研究では、このプロセスに中心的役割を果たすCaMKIIをターゲットに、内在性競合阻害ペプチドの導入や疾患関連変異体の解析を行った。In vitroでシナプスの液-液相分離凝縮体を再現し、競合阻害ペプチドを添加したところ、凝縮体の離散が認められた。このことは、シナプスの増強・抑圧の二方向性制御に関与していると考えられる。一方で、シナプスに存在するPSD-95やHomerによって構成される他の液-液相分離凝縮体に対しては離散効果が見られなかった。このことは、学習によって引き起こされたシナプスのナノスケール変化を元に戻す機構の存在を示唆している。逆に、既知のシナプスダウンスケール因子であるHomer1aは、Homerによって構成される液-液相分離凝縮体に対する離散効果を呈したが、CaMKIIの液-液相分離凝縮体には効果を持たなかった。このことは、シナプスを負に制御する因子が複数存在し、それぞれ異なる機構・異なる文脈でシナプス伝達を制御していることを示唆している。 CaMKIIには疾患関連変異が存在する。この変異体の性質を調べたところ、立体構造が変化しやすく、キナーゼ活性を持ちやすく、不活性化しにくい可能性が示唆された。今後はこのことが液-液相分離にもたらす影響を解析していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CaMKIIを競合阻害する内在性ペプチドとしてcamk2n1、Homerを競合阻害するペプチドとしてHomer1aが知られ、これらの因子はそれぞれ学習、睡眠によって発現誘導されることが示唆されている。これらの因子の相違点を見出し、それぞれを液-液相分離の観点から記述するのが本研究の到達点の一つであった。そこで本研究ではまず、in vitroでシナプス活動調節因子の効果を試験するプラットフォームを開発することから始めた。シナプスにおける相分離凝縮体をin vitroでより詳細に再現することを目標にした。AMPA受容体の細胞内ドメイン、NMDA受容体の細胞内ドメイン、CaMKII, PSD-95, Shank, Homerといった因子をもちいてin vitroの液-液相分離の形成を誘導しカルシウム刺激をおこなったところ、Shank-Homer, PSD-95-AMPA受容体, CaMKII-NMDA受容体に分かれることがわかった。このことは、それぞれが異なるクラスターまたはナノドメインを形成しているという過去の知見と一致している。そこに既知のシナプスの負の制御因子である Homer1aまたはCamk2n1を添加したところ、それぞれShank-Homer、CaMKII-NMDA受容体の凝縮体に対する離散効果を呈した。これらのことは、Homer1aが睡眠時にShank-homerの離散、Camk2n1が学習時にCaMKII-NMDA受容体の離散を介してシナプスを負に調節している可能性を示唆している。 これらのことは、in vitroにおいてシナプス活動調節因子の効果を試験するプラットフォームが機能していることを示唆しており、本研究の核となる進展である。またシナプスは文脈ごとに異なる方法で負に調節されることを示唆しており、記憶関連疾患の治療へ向けた大きな手掛かりを得た。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの本研究により、Homer1aがShank-Homer凝縮体を離散することが分かってきた。Homer-shankはmGluR5受容体のナノスケール局在を制御している可能性が示唆されている。そこで今後はin vitroプラットフォームにmGluR5を追加し、Homer1aのシナプス相分離凝縮体への効果を検証する。また、PSD-95-AMPA受容体の凝縮体を離散させるペプチド因子は現在のところ見つかっていない。そこでPSDに存在する既知の因子の中からAMPA受容体をPSD-95から離散され得る因子をAIによる複合体構造予測を用いて同定していく。 in vivo実験については、Camk2n1の記憶に果たす役割を主に進めていていく。Camk2n1は学習により発現し、CaMKII-NMDA受容体の凝縮体の離散を促進している。これは、学習時に神経細胞内の他のシナプスを減弱し、可塑性の許容量を調節していると考えられる。これを応用することで、特定の記憶を減弱することが可能であると期待できる。これを検証するために、学習マウスにcamk2n1を投与し、記憶テストを行っていく。また、この効果をHomer1a投与時と比較することで、Camk2n1に特異な役割を見出していく。 CaMKII変異体については、この変異体が凝縮体の形成と維持にどのような変化をもたらすのかを検討していく。これまでの研究で、変異体は活性化されやすく不活性化されにくいことが示唆されているので、変異体存在下では凝縮が起きやすく離散しにくいことが考えられる。このことがシナプスの二方向制御を脱制御し疾患を誘導すると考えられる。 この研究の完成により、シナプスおよび神経細胞の性質を自由に操作しニューロンネットワークを操作し記憶関連疾患の治療への道筋を開拓することができると期待される。
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