2021 Fiscal Year Annual Research Report
組織不祥事の発生プロセスおよび常態化プロセスの解明
Project/Area Number |
21J20718
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 久瑠実 北海道大学, 経済学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 企業倫理 / 組織不祥事 / 非倫理的行動 / レビュー / 道徳的不活性 / 組織コミットメント / 定量的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績の概要は以下のとおりである. 第1に,組織不祥事研究の鍵概念となる従業員の「非倫理的行動(unethical behavior)」を目的変数とする定量的研究のレビューを行った.その結果,研究動向として,①個人に原因を帰するBad Applesアプローチから,組織に原因を帰するBad Barrelsアプローチへの移行,②他分野の概念を用いた検証から,企業倫理分野特有の概念を用いた検証への移行,という2点を提示した.加えて,今後の課題として,①交互作用/間接効果についての検証のなかでも,特に組織的要因と個人的要因の組み合わせや,組織的要因同士の検証が必要であること,②定量的研究の検証結果と理論的通説との整合性の検討が重要であることを指摘した. 第2に,非倫理的行動の測定尺度の類型化と,その先行条件の差異について定量的に検証した.非倫理的行動を測定する際には,Newstrom & Ruch (1975)が開発した尺度が用いられることが一般的である.この測定尺度を用いた定量的研究では,非倫理的行動の先行条件として,これまで多くの要因が検証されてきたが,なかには研究によって見解が一致しない要因もある.この背景として,測定尺度のなかに多様な非倫理的行動が含まれているにもかかわらず,一元的に捉えていることが影響を与えている可能性が考えられる.そこで,Newstrom & Ruch(1975)の非倫理的行動の測定尺度を,その行動の特性によって「職務怠慢」と「職務不正」に分類し,それぞれの先行条件に差異があるか否かを検証した.その結果,①職務怠慢および職務不正のいずれに対しても道徳的不活性が促進効果をもつという共通点と,②職務怠慢に対しては情緒的コミットメントが抑制効果をもち,職務不正に対しては存続的コミットメントが抑制効果をもつという相違点を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は,組織不祥事研究において鍵概念となる従業員の非倫理的行動に関する定量的研究のレビューを実施した.この作業を通じて,組織不祥事の発生メカニズムを実証的に検討するための素地を形成することができたと考えている.さらに,レビューの実施によって,これまで暗黙的に用いられていた非倫理的行動の測定尺度の課題を指摘し,非倫理的行動の類型化を検討するという進展を得た.この成果については,論文(査読付)として公表することができた. これらの研究を進めるなかで,組織不祥事の発生メカニズムに関し,理解を深めるためには次の2点が必要となることが明らかとなった.第1に,非倫理的行動に関する定量的研究が盛んな欧米での知見が,日本においても援用可能か否かの検証の必要性である.第2に,実際の組織不祥事の事例について検討を行い,日本企業の実態に即した仮説を導出する必要性である. 2021年度の後半は,上記に関する取組みを進めた結果,組織不祥事の発生メカニズムに関する検討は想定よりも深化された一方で,常態化メカニズムに関しては,ほとんど進展していない.以上を総括すると,当初の目的に対して,研究はやや遅れていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,以下3点の作業に注力する. 第1に,従業員の非倫理的行動を目的変数とする定量的研究を実施する.2021年度に,日本の製造業で勤務する正社員を対象に,組織コミットメントおよび倫理的リーダーシップが非倫理的行動に与える影響に関するアンケート調査を実施した.2022年度では,得られたデータをもとに分析を行う予定である. 第2に,製造業における品質不正に関する定性的研究を実施する.組織不祥事の発生メカニズムに関する理解を深めるため,特定の事例を取り上げて考察を行う予定である. 第3に,Ashforth & Anand (2003)が提示した不正の常態化(制度化,社会化,合理化)について批判的に検討する予定である.
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