2022 Fiscal Year Annual Research Report
組織不祥事の発生プロセスおよび常態化プロセスの解明
Project/Area Number |
21J20718
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 久瑠実 北海道大学, 経済学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 企業倫理 / 組織不祥事 / 組織コミットメント / 倫理的リーダーシップ / 定量的研究 / 品質不正 / 不正のトライアングル理論 / 事例研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の研究実績の概要は以下のとおりである. 第1に,組織コミットメント(情緒的/存続的/規範的)および倫理的リーダーシップが,日本企業における従業員の非倫理的行動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的として,定量的研究を実施した.その結果,①情緒的コミットメントが高い従業員ほど非倫理的行動の頻度が低くなること,②存続的コミットメントが高い従業員ほど非倫理的行動の頻度が低くなること,③規範的コミットメントが高い従業員ほど非倫理的行動の頻度が高くなること,④上司の倫理的リーダーシップが高いと従業員の非倫理的行動の頻度が低くなること,⑤倫理的リーダーシップは,「情緒的コミットメントが高いと非倫理的行動の頻度が低くなる」という関係を強めること,の5点を明らかにした. 第2に,2019年に発覚した日産自動車による排出ガス検査不正を事例とし,不正が行われた5つの工場と,不正が行われなかった九州工場の比較を通じて,現場レベルでの不正の発生要因を明らかにすることを目的に分析を行った.その結果,排出ガス検査不正が発生した5つの工場では,①検査作業・不具合発生に対するプレッシャー,②上司・他部署に気づかれずに不正をする機会,③試験条件・検査基準に対する合理化という3点が品質不正を生じさせた可能性があることを示した.他方,九州工場においては,排出ガス検査に関する専門知識を有する専門工長の存在とそのふるまいによって,不具合発生に対するプレッシャーが低減され,上司に気づかれずに不正をする機会が少ないと認識し,試験条件や検査基準に対する合理化が抑制されたことで,不適切な排出ガス検査が行われなかったことを指摘した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度(2021年度)で,組織不祥事の発生プロセスの解明に関連する課題として,次の2点を提示していた.第1に,非倫理的行動に関する定量的研究が盛んな欧米での知見が,日本においても援用可能か否かの検証の必要性,第2に,実際の組織不祥事の事例について検討を行い,日本企業の実態に即した仮説を導出する必要性である.これらを踏まえ,2022年度は,非倫理的行動に関する定量的研究および日本企業の組織不祥事(日産自動車)を事例とした定性的研究を行い,それぞれの成果を学会で発表することができた. 他方,常態化プロセスに関しては,Ashforth & Anand (2003)が提示した不正の常態化(制度化,社会化,合理化)について検討をしてきた.この作業を通じて,不正の常態化プロセスについて検討するための基盤を形成することができたと考える.しかし,このフレームワークは,不正の常態化の側面を示すものであり,常態化の要因やプロセスを分析する際の枠組として適しているとはいえない.そこで,まずは事例から帰納的に要因やプロセスを導出する必要があると考え,不正行為が組織内で広く行われている事例(金融業の不正融資問題)を取り上げ,不正行為の普及要因についての検討を始めている. 以上の状況を踏まえ,当初は想定していなかった作業も含まれるが,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,最終年度となるため,特に次の2点に注力する予定である. 第1に,2022年度の研究成果を論文として公表できるよう準備を進めることである.第2に,金融業の不正融資に関する事例の分析を通じて,不正行為の普及要因を解明し,その成果を学会で報告することである.
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