2021 Fiscal Year Annual Research Report
「三つの故宮」構想に基づく「故宮博物院史」の新研究―中国東北の「皇産」を中心に
Project/Area Number |
21J40047
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大出 尚子 北海道大学, 文学研究院, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 盛京 / 盛京三陵 / 陵墓 / 瀋陽故宮 / 皇産 / 清室優待条件 / 盛京内務府 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中華民国期から満洲国期の中国東北、なかでも瀋陽故宮・盛京三陵などの陵墓(清室不動産=「皇産」)と文物(清室動産)保全の歴史的展開を検討するものである。特に、「皇産」という視点から瀋陽故宮史研究を深化させることにより、既存の文物史中心の故宮博物院史を見直し、「三つの故宮」構想に基づく新たな故宮博物院史を構築することを研究目的とする。 本年度は、新たに研究対象とした盛京三陵の基礎研究に傾注し、まず各陵に設置された総管衙門および掌関防衙門と、最高統轄機構であった三陵総理事務衙門といった管理機構の変遷を追う作業から着手した。同時に、研究計画に掲げた盛京内務府による三陵管理体制の考察も進めた。 中国東北における陵墓の管理体制は、清朝崩壊後の「清室優待条件」体制下においても存続した。だが、1924年の「修正清室優待条件」により、1925年に盛京内務府と三陵守護大臣衙門は解体し、宮殿と盛京三陵は奉天省長公署の管轄となった。この約1年間の動きは、清初に創建された宮殿・三陵の歴史上、大きな転換点となった。以上の考察結果は、「盛京三陵の成立と中華民国成立前後までの管理機構」(満族史研究会第36回大会)にて公にした。 本年度の資料調査は、学外者の利用が可能であった研究機関に限定された。東京大学東洋文化研究所(7/19)・東洋文庫(1/21)では、盛京三陵予算・奉天の土地制度・民国期の東三省の財政関係資料を収集した。国立国会図書館(2/26・3/26)では、清末民国期の雑誌データベースを利用して『政治官報』の三陵・盛京内務府等の資料や、『満洲日日新聞』のマイクロフィルムから満洲国期の盛京三陵関係記事を収集した。また、静岡大学附属図書館所蔵の嘉慶『欽定大清会典事例』・光緒『欽定大清会典』・『大清徳宗景(光緒)皇帝実録』・『大清宣統政紀実録』(全て影印本)を閲覧し、上記口頭発表に利用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
盛京三陵の研究は、新規に着手した課題であり、清朝初期から中華民国期という長期的な管理機構の変遷を追う作業は想定していたよりも難しいものであった。ただし、本年度4月に着手した研究成果を、12月に学会発表の場で報告することができた。 学会発表後は、満洲国期の盛京三陵・宮殿の管理機構の変遷も射程に入れた研究を丁寧に進めることで、これまで満洲国期を中心に研究してきた自身の研究がより進展するのではないかと考えるに至った。これは、当初の計画以上に進展したからこそ得られた着想である。そこで1月以降は、満洲国建国後に盛京内務府の系譜に位置付けられる機構(執政府~宮内府)が復活して陵廟・宮殿の管理を担った点に注目した研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず令和4年度は、計画通りに資料調査を行ない、収集した資料を用いて本年度の学会発表の内容を深化させ、論文として発表する。 同時に、満洲国期における陵廟管理機構の研究を進める。具体的には、執政府内廷局~宮内府近侍処の組織的性格、任用された人物の動向を探究する。さらに、本年度研究を進めたことで、瀋陽故宮とは異なり、盛京三陵には「満洲国皇帝」・溥儀がその守護に務めようとする意向が強く反映されていたことを発見したため、溥儀の動向も探究する。特に、1934年10月の満洲国皇帝即位後に行われた、溥儀による盛京三陵参拝を意味づける。 その作業をとおして、中華民国期に「皇産」と位置付けられた宮殿・陵墓が、満洲国期にいかなる意味を持つ存在として変化したかを明らかにしたい。
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