2022 Fiscal Year Annual Research Report
捕食機構と葉緑体の関係に着目した従属栄養性渦鞭毛藻の進化過程の解明
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21J40057
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 愛果 北海道大学, 理学研究院, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 渦鞭毛藻類 / 系統 / 従属栄養 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
渦鞭毛藻は世界中の水圏に分布し、赤潮の原因藻としてなど、光合成をするプランクトン性の微細藻としての印象が強い。しかし実際には他生物を捕食する従属栄養性種や、大型海藻の表面等に生息する底生性種も多く存在する。3000種以上が記載される渦鞭毛藻は、複雑な進化を遂げてきたことが明らかになってきているが、全体的な系統関係については従属栄養性種や底生性種のデータが著しく欠けているために大部分が未解明となっている。本研究はこの欠けている種群のデータを集中的に獲得し、渦鞭毛藻全体の進化過程をより詳細に推定するための礎を補強することを目的としている。 砂浜に生息する新規渦鞭毛藻2種について、光学および電子顕微鏡を用いた形態観察と分子系統学的解析の結果から、従属栄養性有殻渦鞭毛藻アンフィディニオプシス属の新種であると結論づけて国際学術誌に記載論文を発表した。本2種は特定位置の鎧板が独特な形態をしており、既に提唱されているアンフィディニオプシス属内のどの形態グループにも所属しないことを示し、新たな形態グループを提唱した。本研究は未知の部分の多い従属栄養性渦鞭毛藻の多様性を明らかにするための重要な成果と言える。さらに、上記とは別の底生性有殻渦鞭毛藻の既存種を研究材料とし、本種の分子系統学的解析をおこない、顕微鏡観察から得られた形態学的特徴と総合的に考察をおこなった。その結果、本種は従来とは異なる属へ移すことが妥当であると結論し、本種に対して新属を設立して新組み合わせを発表した。渦鞭毛藻の分類体系は、近年の分子系統学的研究や詳細な形態学的研究結果を基に様々な系統で改正がおこなわれている最中であり、本研究もより系統を反映した渦鞭毛藻分類体系を設立していくために重要な役割を果たした。また、過去の文献から国内で出現記録のあった底生性渦鞭毛藻の記録をまとめ、情報の整理をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度にも長引いた新型コロナウィルス感染症の流行のため、予定していた採集地点による野外採集の多くを中止せざるを得ず、令和3年度と同様に、主に北海道内での野外採集や、協力者に提供していただいた海水サンプルや海底堆積物などを研究材料として用いて、目的とする渦鞭毛藻種や新規の渦鞭毛藻の探索をおこない、それらの観察と、様々な培地と餌を試すことによる培養株の確立をおこなった。また、砂浜の砂の間隙に生息する従属栄養性有殻渦鞭毛藻2種において光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いた形態観察及び分子系統学的解析の結果から新種記載をおこない、国際学術誌へ論文発表をおこなった。この2種は共に下殻腹側に位置する鎧板が非常に特徴的な形態をしており、分子系統学的解析の結果からも本2種の近縁性が示されたが、下殻にある棘の特徴や他の位置にある鎧板の形態的特徴の違いなどからこれらは別種であると結論した。本2種は分子系統学的解析結果では単系統性を示し、形態的特徴から底生性有殻渦鞭毛藻類のアンフィディニオプシス属に所属するが、今までに提唱されている本属内のどの形態グループにも属しないことが明らかになり、本属における新たな形態グループを設立・提唱するに至った。また、別の底生性有殻渦鞭毛藻類の既存種における分子系統学的解析をおこない、光学・電子顕微鏡による形態学的データと総合的に考察した結果、本種に対して新属を設立して新組み合わせを発表した。また、過去の文献から国内で出現記録のあった底生性渦鞭毛藻の記録をまとめ、情報の整理をおこなった。新型コロナウィルス感染症による影響で制約が出てしまった部分もあったが、状況に対処して研究活動を継続し国際学術誌への論文掲載などの成果を挙げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、これまでに特に野外採集活動に関して大きな制約となっていた新型コロナウィルス感染症の流行による社会状況が令和5年度には改善されることが強く期待されるため、慎重に考慮して行動することが大前提ではあるが、予定していた目的の渦鞭毛藻類が採集できる可能性の高い採集地にて積極的に野外採集をおこなっていく予定である。また、これまでに引き続き、並行して北海道内を中心とした渦鞭毛藻類の野外採集も重点的におこなっていく。適宜協力者に頼んで遠隔地の海底堆積物や海水などの野外サンプルを提供していただく等の手段も採用していく予定である。これまでに採集して所在を確認することのできている従属栄養性の有殻渦鞭毛藻については、引き続いて研究対象として採集活動をおこない、さらなる必要データの取得をおこなっていく。さらに、他の様々な従属栄養性・底生性の渦鞭毛藻の種についても可能な範囲での野外採集活動を続け、それらの出現記録の記載と各種顕微鏡を用いた形態観察や培養株の確立を試み、分子系統学的および形態学的研究データを取得してその研究成果を整理してまとめることによって、引き続き従属栄養性渦鞭毛藻の各系統に対するより詳細な進化過程のシナリオを解明していくことを目指す。
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Research Products
(5 results)