2022 Fiscal Year Annual Research Report
顆粒球が担うテニア科条虫感染初期における自然免疫反応の解明
Project/Area Number |
22J11199
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
林 直樹 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 寄生虫 / テニア科条虫 / エキノコックス / コントロール / ミトゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
テニア科条虫は宿主の腸管壁を穿通して侵入し、肺、肝臓などの宿主組織で成長する寄生虫である。本邦においても、ヒトに病害をもたらすテニア科条虫の一種であるエキノコックス(多包条虫)が北海道に分布する。本研究では、多包条虫をモデル寄生虫として、様々な条件下での感染実験を中心に、日本国内におけるテニア科条虫流行抑制および排除に向けた基盤情報の提供を目指す。 当研究室および共同研究機関である北海道立衛生研究所では、1980年代より継代されている多包条虫根室分離株(北海道株)が感染実験に用いられてきた。しかし本分離株の遺伝的背景や、道内に分布する寄生虫集団の有する遺伝的特徴は明らかでない。遺伝的背景の異なる寄生虫は病原性などその表現型にも差がある可能性が報告されており、実験モデルで得られた結果の外挿性を正確に評価すべく、本年度は基礎的な遺伝的知見の補完を目指した。 北海道立衛生研究所の協力のもと、北海道内各地から多包条虫を収集し、ミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)および核ゲノムの遺伝子解析を実施した。ミトゲノム解析の結果、全道で検出されるアラスカ型と、道東部でのみ検出される中国型の2つの遺伝系統が存在することが明らかとなった。核ゲノム解析においても、道内の多包条虫は2つのクラスターに大別されたが、2遺伝子型が共存する道東部でのみ、ミトゲノムと核ゲノムによる分類は一致しなかった。これらの結果より、国内には主要なアラスカ型が広く分布する一方で、北海道東部では2遺伝子型の交雑が生じ、新たな遺伝的特徴を持つ集団が形成されている可能性が示唆された。また同解析により、根室株はミトゲノムおよび核ゲノムにおいて全域に分布するアラスカ型集団と同様の遺伝的背景を持つことを明らかにでき、本分離株を用いた感染実験は治療・予防法開発に必要な基盤情報に有用な実験系であることが担保された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は寄生虫コントロールに向けた基礎的な情報として、本邦に分布する多包条虫の遺伝的プロファイリングを展開し、これを大きく進めることができた。また実験室株の遺伝的評価から、感染モデルで得られた結果の外挿性も確認することができ、次年度の研究だけでなく今後の寄生虫対策に大きな進展をもたらすことができたと考える。本知見を活用し、次年度は虫卵を用いた感染実験を展開する。感染実験には道立衛生研究所の特殊施設の使用が 必要であるが、実験遂行に向けた調整も概ね完了しており、本研究課題は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
多包条虫根室分離株を用い、当初の予定通り虫卵の中間宿主動物への感染実験を遂行し、感染成立に重要な宿主因子の特定を目指す。また、北海道内に根室分離株以外の遺伝子型が見られたことから、フィールド調査を通して新たな新規分離株の樹立を試みる。根室株と新規分離株との性状差異から、感染成立に関わる寄生虫側因子にも知見が得られると考え、実験的な検討を行う予定である。ただし、特殊施設の利用には制限があるため、感染実験については優先順位を検討しながら遂行する予定である。
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