2022 Fiscal Year Annual Research Report
牛の子宮内サイトカインネットワークを調節する精漿中オステオポンチンの機能解析
Project/Area Number |
22J20415
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Research Fellow |
谷田 孝志 北海道大学, 獣医学院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 乳牛 / 不妊 / リピートブリーダー / 子宮 / 低受胎 / オステオポンチン / 治療 / 腟 |
Outline of Annual Research Achievements |
腟内投与されたオステオポンチン(OPN)が、乳用リピートブリーダー牛の子宮内膜上皮成長因子(EGF)発現異常を正常化させ、受胎性を改善させる機序の一端を明らかにするため、本年度は以下の項目について検討した。なお、活性部位については、特許申請を予定しているため、部位AおよびBと表記する。 1.子宮機能を調節するOPNの活性部位の決定:各種受容体を標的とした種々の断片型OPNを合成ペプチドおよび大腸菌由来組み換えタンパク質として作製した。これら断片型OPNをEGF発現異常を示すリピートブリーダー牛に投与し、その治療効果を判定した。その結果、部位Aを有する断片型OPNを腟内に投与した場合に、EGF発現の正常化効果および受胎性改善効果が認められ、本部位が子宮機能を調節するOPNの活性部位であることを明らかとした。また、部位Aに加えて部位Bを有する断片型OPNでは、部位Aのみを有する断片型OPNよりも高いEGF発現正常化効果を認めた。このことから、部位Bが部位AによるEGF発現正常化作用の活性増強に関与することが示唆された。現在、部位Bが部位Aによる受胎性改善作用の活性増強に関与するのかについて検証している。 2.活性部位を含む断片型OPNが末梢血単核球、腟および子宮のサイトカイン発現に及ぼす影響:本試験を実施するにあたり、腟がOPNの標的器官となりうるのかを調査するため、授精時の腟からスワブを採取し、スワブ中の細胞からRNAを抽出して、OPN受容体の遺伝子発現を解析した。その結果、部位Aおよび部位Bの標的受容体を含む種々のOPN受容体遺伝子の発現が確認された。このことから、腟内投与されたOPNがリピートブリーダー牛の子宮内膜EGF発現異常を正常化させる機序に、腟が関与する可能性が示唆された。現在、末梢血単核球におけるこれら受容体の遺伝子発現量について調べている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初設定した2つの項目について、いずれも当初の計画以上に進展していると判断する。 1.子宮機能を調節するOPNの活性部位の決定:本年度の研究から、当初目標としていたOPNの活性部位(部位A)を決定することができた。また、部位AによるEGF発現正常化作用の活性増強に関与する部位Bについても決定することができた。これらの部位については、特許を申請する予定であり、当初の計画以上に研究は進展している。 2.活性部位を含む断片型OPNが末梢血単核球、腟および子宮のサイトカイン発現に及ぼす影響:本年度では、当初目標としていた生体から末梢血単核球、腟および子宮の細胞を採取する方法やサイトカイン遺伝子発現測定法などのセットアップを実施した。しかし、子宮の細胞の採取方法について、生体への侵襲性がより低い採取方法が新たに報告されている。そのため、次年度に本手法の検討を追加して実施する。また、当初の研究計画に加え、授精時の腟におけるOPN受容体の発現量についても調査することができた。さらに、今年度実施する予定であった末梢血単核球の培養系のセットアップについても実施することができた。そのため、当初の計画以上に研究は進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和5年度から6年度にかけては、当初の予定通り、項目2に関する試験を中心に実施する。子宮の細胞の採取方法について、生体への侵襲性が従来検討していた方法より低いと考えられる採取方法が新たに報告されたため、令和5年度に本手法の検討を追加して実施する。子宮細胞採取方法の検討が終わり次第、生体を用いた試験を開始する。活性部位を有する断片型OPNを牛の生体内に投与し、腟、血液および子宮における炎症性サイトカイン遺伝子の発現量の変化について調査する。また、当初の研究計画では、活性部位を含む断片型OPNが血液中のリンパ球サブセットに及ぼす影響について調べる予定であったが、組み換えOPNを生体内投与した過去の試験の結果から、OPNが血液中のリンパ球サブセットに及ぼす影響は低いことが示唆されたため、本試験は実施しないこととする。 また、当初の予定では、令和6年度に体外培養系を用いた試験を実施する予定であったが、末梢血単核球の培養系がセットアップされたので、体外培養系を利用した試験について令和5年度に前倒して実施する。具体的には、断片型OPNを培養した末梢血単核球および腟組織に作用させ、サイトカイン遺伝子発現量の変化を調べる。また、末梢血単核球と腟組織を共培養し、同様の評価を行う。これら体外培養系を利用した試験は、生体内を用いた試験と並行して実施する。
|