2022 Fiscal Year Annual Research Report
植物におけるエピジェネティクス関連酵素のスクリーニング法の確立
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22J21071
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
沖宗 慶一 北海道大学, 国際食資源学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | ヌクレオソーム / クロマチン / エピジェネティクス / コムギ胚芽無細胞タンパク質合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
染色体を構成するDNA-ヒストンタンパク質複合体:ヌクレオソーム及びクロマチンを試験管内で再構築する当研究室独自の手法を、新たにモデル植物であるシロイヌナズナについて適用すること、さらに再構築ヌクレオソーム・クロマチンを基質として利用し、ヒトや酵母に比べて生化学的知見の少ない植物のエピジェネティクスに関連するヒストン修飾酵素の機能解明を目的に研究を実施した。 試験管内ヌクレオソーム・クロマチン再構築法については、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成法をベースにDNA存在下でシロイヌナズナヒストンH2A、H2B、H3、H4をコードするmRNAを共翻訳することで、ヌクレオソーム及びクロマチンの形成が確認された。環状DNA、ヌクレオソームポジショニング配列を含む直鎖DNAなど長さや塩基配列、形状の異なるDNAに対してヌクレオソームが形成されることを確認した。さらにH2AXやH3.3など5種のヒストンバリアントを含むヌクレオソーム再構築反応を実施したところ、数種類について本手法による再構築能が認められ、今後論文投稿を予定している。 ヌクレオソームの高純度精製法を模索した結果、マグネシウム沈殿とスクロース密度勾配遠心分離を組み合わせることで本ヌクレオソーム再構築法に対する精製法を確立した。精製ヌクレオソームに対し、蛍光色素を用いた熱安定性の測定を実施したところ既存の報告とのおおよその一致が確認された。 ヒストン修飾酵素の生化学的機能解析については、シロイヌナズナに先立ち当研究室で既に再構築反応が確立したヒトヌクレオソームを基質に実施した。ヒストン修飾反応後、Arg-Cによるゲル内消化を経てプロテオミクス解析を行なったが、目的のヒストンN末端領域のペプチド検出が認められなかったため、Arg-C消化等について条件検討が必要である。 以上の研究成果をもとに分子生物学会年会にてポスター発表を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コムギ胚芽無細胞タンパク質合成を利用した植物ヌクレオソーム・クロマチン再構成法が確立できたこと、さらに環状や直鎖DNAに対するヌクレオソーム形成やヒストンバリアントが取り込まれたヌクレオソームの形成が確認されたことは、本再構築法によって種々のヌクレオソーム・クロマチン基質の合成が可能であることを示し、今後これらの基質を利用したヒストン修飾酵素の機能解析に向け、順調な研究の進展であると考えている。さらに高純度精製法を確立したことも進捗が順調と言える理由の一つである。精製効率向上に向けてヌクレオソーム再構築反応等の最適化などが依然として必要であるが、精製法自体を確立したことは今後、構造解析の実施につながる重要な進捗であったと考えられる。 一方でエピジェネティクスに関わるヒストン修飾酵素の機能解析については、順調さを欠いている。その理由にプロテオミクス解析に必要な機器のポンプに故障が起こり、3ヶ月程度研究が滞ったことが挙げられる。また、プロテオミクス解析に必要なタンパク質分解消化によるペプチドへの断片化の反応条件が当研究室において確立していないことも順調さを欠いている要因の一つである。現在、エンドペプチダーゼArg-Cを利用したヒストンタンパク質分解消化反応の条件検討をしており、ヒストン修飾酵素の主なターゲットであるヒストンN末端領域の検出を目指している。 以上のようにヌクレオソーム・クロマチンの再構築法、高純度精製法の確立については順調な進捗が得られていること、エピジェネティクスに関連するヒストン修飾酵素の機能解析については進捗がやや遅れていることを統合的に判断し、おおむね順調な進捗状況とした。
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Strategy for Future Research Activity |
再構築ヌクレオソームの高純度精製法を確立したが、精製効率に課題がある。理由の一つにヌクレオソームを構成する4種のヒストンがH2A:H2B:H3:H4=1:1:1:1:のストイキオメトリーな状態ではないため、形成されたDNA―ヒストンタンパク質が全て均一なヌクレオソームの状態ではない可能性が挙げられる。そこで、本年度は各ヒストンmRNA量を調整し、ヌクレオソーム再構築反応を最適化することで課題解決を目指している。その後、クライオ電子顕微鏡または原子間力顕微鏡による構造解析及びサーマルシフトアッセイによる熱安定性測定を実施予定である。クライオ電子顕微鏡解析結果をもとに既存の再構築法と本再構築法によって形成されたヌクレオソーム構造の比較が可能となる。 ヒストン修飾酵素の機能解析については、進捗状況で記載したプロテオミクス解析のためにヒストンタンパク質消化条件の検討を行う。再構築ヌクレオソームに対し、ヒストン修飾反応並びにプロテオミクス解析に与することによって、再構成産物が基質として機能することを確認する。その後、安定同位体標識TMT(Tandem Mass Tag)試薬を利用した定量プロテオミクス解析を実施する。再構築ヌクレオソームに対するヒストン修飾反応効率の評価、そして今後実施する複数のヒストン修飾酵素を介した多段階的なヒストン修飾反応の定量解析のための基盤技術の構築を目指している。 これらに加えて、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成法を利用した試験管内ヌクレオソーム再構築法は本研究室独自の技術であるため、コムギ胚芽抽出物内のヌクレオソーム関連因子の有無を明らかにする必要があると考える。そこでヌクレオソーム再構築産物に対し、ヒストン抗体を利用した共免疫沈降、プロテオミクス解析を行うことで、因子の同定を実施する。 以上の研究で得られた成果をもとに論文投稿や分子生物学会での発表を行う。
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Research Products
(2 results)