2022 Fiscal Year Annual Research Report
The study on the relationship between regulated cell death and prion diseases
Project/Area Number |
22J21392
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
星加 恭 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | プリオン病 / 神経細胞死 / ATF3 |
Outline of Annual Research Achievements |
プリオンに感染した動物の中枢神経において顕著な神経細胞の脱落が観察されるが、その機序は不明な点が多い。アルツハイマー病やパーキンソン病などの難治性中枢神経疾患における神経細胞死のメカニズムは十分に判っておらず、プリオン病における神経細胞死・神経病態機序の解明は、他の神経変性疾患の病態理解の一助となることが期待される。プリオン病で引き起こされる神経細胞死の分子機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 プリオン感染マウスの小脳顆粒細胞層では、TUNEL染色陽性、活性化型カスパーゼ3陽性の典型的なアポトーシスが観察された。一方プリオン感染マウスの視床背外側核では病態の進行に伴い神経細胞の顕著な脱落が認められるものの、この領域の神経細胞はTUNEL染色陰性であり、活性化型カスパーゼ3も検出されなかったことから、アポトーシスは生じていないと考えられた。神経細胞における脂質の過酸化の副産物4-hydroxynonenal(4-HNE)の蓄積の増加、および、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx4)の減少が認められたことから、視床背外側核の神経細胞では、Regulated Cell Deathのうち、過酸化脂質の蓄積によって引き起こされる、フェロトーシスが関与することが示唆された。さらに、視床背外側核では病態の進行に伴い、ストレス誘導性転写調節因子ATF3が神経細胞で発現が誘導されるが、ATF3を発現する神経細胞はグルタチオン分解酵素Chac1のmRNAを発現していることを見出した。視床の神経細胞で発現が誘導される転写調節因子ATF3はプリオン病の病態において、抗酸化作用を持つグルタチオンを分解することで神経細胞に生じる酸化ストレスを亢進し、神経障害的に機能することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
プリオン感染マウスの病末期において50%以上の神経細胞が脱落する視床における神経細胞死にferroptosisが関与する可能性を示すことができたこと、さらにこの領域の神経細胞の脱落に転写調節因子ATF3、およびグルタチオン分解酵素Chac1が関与する可能性を明らかにしたことは、本研究の目的の達成に大きく寄与する成果であると考えられる。さらにプリオン感染マウスの小脳顆粒細胞層でapoptosisが進行することを明らかにしたことは、プリオン病に罹患した動物の中枢神経組織で、異なる神経細胞死機構が進行していることを示している。プリオン病によって引き起こされる神経細胞死には脳領域あるいは神経細胞種特異性が存在することが示唆され、当初の予定にはない大きな発見であると評価している。この2つの領域における病態の違いを詳細に研究していくことで更なる成果が期待できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ATF3 により転写調節を受ける因子の解析 中枢神経においてATF3が転写調節する遺伝子群は同定されていない。そこでクロマチン免疫沈降法(ChIP-Seq)により、ATF3が転写調整する遺伝子群の同定を試みる。ChIP-Seqの成否はATF3を発現する神経細胞数に依存するため、プリオン感染マウスの脳組織を材料として用いる方法では結果を得ることが難しいと予測される。よってそれに代わる方法として、神経細胞初代培養にATF3を発現させたものをサンプルとして用いる。2022年度は神経細胞初代培養に20μMの過酸化水素、並びに100μMのC2セラミドをそれぞれ18時間反応させた神経細胞が高いATF3の発現率を示すことを明らかにしたため、本条件の神経細胞初代培養を解析に用いる。本年度中の実施を予定している。ChiP-Seqにより特定の遺伝子群が同定された場合、プリオン感染マウスの脳組織における、それら遺伝子の発現を定量PCRで、遺伝子産物をIHCで確認する。 Ferrostatin-1のstereotaxic injection Ferrostatin-1 (Fer-1)は還元剤として作用し、脂質ヒドロペルオキシドに水素を供給し、酸化ラジカルを除去する、ferroptosisの阻害剤として知られる。Stockwellらは脳の外傷性変化に対するFer-1の治療効果を解析するためにFer-1を脳内にstereotaxic injectionしており、1 pico molのFer-1の投与が神経細胞死を抑制すると報告している。プリオン感染マウスの視床における神経細胞死がferroptosisであれば、Fer-1の投与が神経保護的に作用することが予想されるため、神経細胞の脱落が顕著な視床にFer-1を投与し、プリオン感染マウスの病態の変化を観察する。
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