2022 Fiscal Year Annual Research Report
倍数性逆転を引き起こす未知の染色体分配メカニズムの解明
Project/Area Number |
22J22003
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
楊 光 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞分裂 / 倍数性 / 染色体分配 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞分裂異常による染色体倍加後に起こる大規模な染色体喪失現象(倍数性逆転)における未知の染色体分配制御メカニズムを解明することを目的とした。染色体倍加と共に倍増する中心体による多極分裂が、大規模な染色体喪失を引き起こす主要な原因と考え、2022年度はまず、染色体倍加直後の多極分裂パターンとその後の細胞生存性に注目した。 実験材料には、ヒト大腸がん由来二倍体HCT116細胞を用いた。染色体および微小管をラベルする蛍光タンパク質マーカーを用いた高解像イメージングで、染色体倍加後の細胞分裂において多極紡錘体によって染色体が三つまたは四つの核に分配されることが観察された。ヒストンマーカーの蛍光強度に基づいた定量解析では、染色体が三または四等分されるパターンの他に、2:1:1や3:2:2:1など偏った比で分配させるケースが多くあった。また、分裂末期に複数の娘細胞が融合し、多核細胞が形成されることが観察された。これらの結果、染色体倍加後の第一世代には、多様な染色体量を持つ細胞が生み出されることが分かった。さらに、長期追跡ライブイメージング解析から、3.5倍体相当以上の染色体量を持つ娘細胞の生存性が高いことが確認された。これらの結果から、染色体倍加に続いて発生する多極分裂は染色体量から細胞核数までの細胞性質に影響し、多様な子孫細胞を生じることが明らかになり、これらの特徴が子孫細胞の生存性に大きく影響する可能性が示された。 そのほか、倍数性逆転を引き起こす特徴的なプロセスを特定するための、低侵襲広視野と高解像三次元撮像を同時実施できるマルチスケール顕微鏡システムに改良を加えた。細胞を長期にわたって観察するためのインキュベーション環境を整え、追跡用広視野画像を取得しながら視野内の特定細胞を自動認識して、局所的に高解像三次元撮像を実現できるプログラムを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多極性分裂によって娘細胞の染色体量や核数に変化が生じることで、染色体倍加後の細胞性質の多様性が増し、倍数性逆転が起こるきっかけになる可能性があると考えられる。2022年度は多極分裂における多様的な染色体分配パターンが娘細胞の染色体量や核数など性質に影響することを明らかにした。さらに、それらの性質が細胞生存性に関連する可能性を示した。これは倍数性逆転メカニズムを解明するために重要な知見になるため、本研究テーマにおける重要な進展であると評価する。また、マルチスケール顕微鏡システムの細胞長期培養設備と細胞認識プログラムが整備された。当システムが今年度中に作成したCRISPR-dCas9を用いたゲノム座位蛍光標識システムに組み合わせて駆使することで、分裂中に特定染色体をリアルタイムに追跡する実験を展開し、多極分裂における各染色体特有の分配パターンを明らかにできると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在細胞生存性に対する観察は、染色体倍加後最初の2回の細胞分裂に限られ、染色体倍加細胞が長期的にわたって生存可能にする必要条件に対する理解がまだ不十分である。今後、倍数性逆転を引き起こす染色体分配メカニズムの解明するために、染色体倍加後より長期的に網羅的な追跡調査が必要と考えている。染色体倍加細胞に対する完全追跡を行いながら染色体分配パターンに加え、核型や遺伝子発現変化にも注目し、倍数性逆転プロセスの全貌を明らかにする。そこで、1)まず、上記のマルチスケール顕微鏡システムを改良し、染色体倍加細胞に対して低侵襲広視野の細胞多系譜追跡をしながら、細胞分裂イベントをリアルタイムに検出して分裂特徴を記録する。長期的な培養を経過して生き延びた細胞系譜集団は生細胞hoechst染色イメージングにより倍数性を定量解析、またはフローサイトメトリーで倍数性を特定し、細胞の分裂経緯と照り合わせて倍数性逆転発生した細胞系譜とその発生タイミングを特定する。2)次に、CRISPR-dCas9システムを用いたゲノム座位イメージングで、多極分裂にわたって特定染色体の運動軌跡を追跡し、倍数性逆転発生時に各染色体の分配傾向を洗い出す。3)さらに、倍数性逆転細胞の性質を理解するために、上記1)で特定した倍数性逆転経過した細胞系譜を細胞株化にして、次世代シークエンスによる核型解析およびトランスクリプトーム解析を行う。分裂特徴情報と核型解析結果を照り合わせ、倍数性逆転細胞特有な異数性染色体パターンを理解する。さらに、トランスクリプトーム解析では、通常二倍体細胞に比較し、発現変動遺伝子解析、gene ontology解析や主成分分析などにより、倍数性逆転系譜に特有な発現変化を突き止めることで、倍数性逆転を起因する分子メカニズムを理解する。
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