2022 Fiscal Year Annual Research Report
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21J00488
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Research Fellow |
馬場 靖人 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 色盲 / 当事者 / 科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度も昨年度同様、コロナ禍によりヨーロッパでの調査・研究を行なうことができなかったため、国内での文献収集や研究交流を中心に行なった。具体的には、申請時に設定した三つの研究目的のうち、目的②(色盲についての支配的言説が形成される過程において、色盲当事者であり色盲を研究する科学者でもあった者の研究活動がどのような役割を果たしていたかを明らかにする)の達成のために、ドイツの色盲当事者の眼科医ハインツ・アーレンシュティールの色盲論を読解し、彼が自身の色彩経験をどのように記述し、意味づけていたかを明らかにすることを試みた。その結果、以下の三点が明らかになった。第一に、彼は主にヴィルヘルム・オストヴァルトの色彩体系を採用することによって、「客観的」な科学の側から色盲当事者たちを統御しようとしていたこと、また、「正常色覚者」と「色盲者」の両方の色彩経験を理解できる、ある種の「翻訳者」として自己規定していたことを明らかにした。第二に、彼は「私」という一人称を用いて赤色盲者の色彩経験を語ることを避け、「赤色盲者」という三人称を用いることで、テクスト内の「赤色盲者」に偽装して自身の経験を語っていたことを明らかにした。第三に、彼はオストヴァルトの色彩体系に象徴される色彩の「調和」を称揚する一方で、そのような科学的な「調和」によっては捕捉不可能な「体験」として色盲者の色彩経験を規定しており、それを「庭」という比喩を用いて言い表していたことを明らかにした。以上により、研究目的②の一部を達成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により、当初予定していたヨーロッパにおける在外研究が行なえなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、在外研究の受入れ先が確定し次第ヨーロッパに渡航し、現地で文献収集および調査・研究を行なう。
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