2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22KJ0160
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
馬場 靖人 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
|
Keywords | 色盲 / 色覚 / カント哲学 / 新カント主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究の過程で、19世紀後半の西欧における色盲についての支配的言説の形成にカント哲学がどのような影響を与えたのかが重要な論点として浮かび上がってきた。そこで最終年度の前半は、ロンドン大学ヴァールブルク研究所にて在外研究を行ない、色覚検査器具「仮性同色表」の発明者であるJ・シュティリングの色覚/色盲理論へのカント哲学の影響を調査した。具体的には、彼の哲学的主張が最も明確に表れている『カントの経験の理論による視覚表象の心理学』を精読した。その結果、シュティリングがA・ショーペンハウアーおよびA・クラウゼのカント解釈を土台として自身の色覚理論を構築していたことが明らかになった。シュティリングは、カントにおいて相互に峻別されていた感性と悟性を、ショーペンハウアーにしたがって「悟性的直観」と読み替え、そこにクラウゼの「色彩カテゴリー」を接ぎ木していたのである。シュティリングによる色覚/色盲理論の構築および仮性同色表の発明は、このような独特なカント解釈を土台としていた。この研究により、19世紀後半の特にドイツにおける色盲についての支配的言説の形成において、カント哲学が重大な役割を果たしていたことを確認できた。またそれに加えて、シュティリングはA・クラッセンなる新カント派の眼科学者からも大きな影響を受けていたことが判明し、色覚/色盲理論と新カント派の哲学との関係性の検討が今後の課題として残った。
|