2021 Fiscal Year Annual Research Report
性に見る近代日本仏教の教祖像――史実と創作の相互関係――
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21J00625
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大澤 絢子 東北大学, 国際文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 教祖の性 / ジェンダー / マスキュリニティ / 教祖像 / 近代仏教 / 近代仏教文学 / 近代歴史研究 / 日本文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、日蓮と親鸞イメージの形成過程の検証を軸に、①資料の収集・整理②研究成果の発表および論文執筆③近代仏教研究の最新の成果に関する書評を行った。 ①では、明治から2000年代までに親鸞と日蓮を取り上げた文学作品の収集および、両者に関する同期間の歴史研究の年代別のリストを作成した。②では、福地桜痴作の歌舞伎「日蓮記」(1894年上演)を対象として、役者の身体や近代の演劇空間との関連から、日蓮像の近代的展開を発表した(「「演じられた教祖ーー福地桜痴『日蓮記』に見る日蓮歌舞伎の近代」」第29回、日本近代仏教史研究会研究大会2021年10月)。また、親鸞の性欲に関する歴史研究と文学の相互関係の有無を検証してその結果を発表(「性に悩む親鸞像の形成ーー近代日本における歴史研究と文学の相関」第80回日本宗教学会、2021年9月)し、親鸞の家族や性欲の問題について論文をまとめた(「妻帯する親鸞――近代日本の僧侶家族論」『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』第39号、2022年3月)。親鸞の妻帯に対する明治以降の語りを検証することで、親鸞の性というマスキュリニティと宗教との関係を考察することができ、年度の後半からは、近代日本の修養や教養と宗教との関係に関する単著の執筆にも取りかかっている。③では、仏教物質文化に関する最新の研究成果をまとめた書籍Richard M.Jaffe, Seeking Skyamuni: South Asia in the Formation of Modern Japanese Buddhismの書評を執筆した(『日本仏教綜合研究』第19号、2021年10月)。この作業により、書物・観光・仏像といったモノとの関係から、海外との交渉により構築されてきた近代日本仏教の多様な側面を検討できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の流行による影響から、図書館等での資料収集や調査が計画通りに進まなかったものの、研究課題に関わる成果を国内外学会にて発表して論文を執筆し、次年度の研究に向けた資料収集と、修養という新たな視点から日本の宗教文化に関する考察にも着手することができた。関連分野の研究者との意見交換・情報収集についてもオンラインを活用するなどして研究を遂行しており、「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度以降は、新宗教の教祖を含む教祖の性の問題に加え、広く日本文化史における教祖や宗教の位置付けについても目配せしつつ、研究を遂行する。 2022年度前半は、特に十五年戦争期における親鸞像と日蓮像の展開の比較を行った上で、親鸞と日蓮を取り上げた明治以降の歴史小説と史実研究の記述および、伝記との共通点や差異、そしてその要因を、「男性性」の記述に絞って検証する。さらに、近現代日本の宗教と社会の関わりとして、明治から大正期における修養言説や実践と宗教との関連を考察し、単著としてまとめる。 年度の後半からは、新宗教の女性教祖との比較に取り掛かる。新宗教とジェンダーに関する先行研究の成果を援用しつつ、彼女たちの人物像形成において結婚や家庭、女性性がいかに関係しているのか、中山みきと出口なおに関する史実検証と伝記における性の語りの検証を行う。中山に関しては、天理教教会研究本部編『稿本天理教祖伝』(1956年)、出口なおに関しては、服部静夫『出口直子伝』(1920年)等の複数の伝記を用いて検証作業を行うことを予定している。考察にあたっては、女性による宗教の「語り」の問題として、岡本かの子の言説についても検討対象とし、得られた成果を研究会等で報告し、論文としてまとめた上で学会誌に投稿する予定である。 年度末から最終年前半にかけては、日蓮主義における日蓮の男性性の問題について、田中智学の『宗門之維新』(1901)等日蓮主義の代表的テキストの言説を史実研究と照合して相違点を分析し、得られた成果を学会で報告する。また次年度の準備として、浄土真宗や日蓮宗等の宗教教団内での戦前と戦後の日本の教祖の性に関わる言説の変化を分析し、論文をまとめる作業に取り掛かる予定である。
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