2022 Fiscal Year Annual Research Report
性に見る近代日本仏教の教祖像――史実と創作の相互関係――
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21J00625
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大澤 絢子 東北大学, 国際文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 教祖の性 / 宗教とジェンダー / マスキュリニティ / 教祖像 / 近代仏教 / 人格陶冶 / 近代歴史研究 / 日本文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、日蓮と親鸞像の対比と近代日本の自己形成の問題を中心に、①資料の収集・調査、②研究成果の発表を行った。 ①では、十五年戦争期における親鸞像と日蓮像の比較に関して、浄土真宗(主に大谷派・本願寺派)関連資料と日蓮宗の機関誌『日蓮主義』の調査を行なった。また、戦前期の修養と宗教に関する資料および、九條武子と仏教婦人会関連の資料収集を行なった。 ②については、十五年戦争期における親鸞像と日蓮像を比較した研究成果を仏教文学会4月例会シンポジウムに招待されて報告した(「宗祖と戦争―悶える親鸞と戦う日蓮」、2022年4月)。また、福地桜痴作の歌舞伎「日蓮記」を対象に、日蓮像の近代的展開を明らかにした論文を発表した(「演じられた教祖―福地桜痴『日蓮記』に見る日蓮歌舞伎の近代」『近代仏教』第29号、2022年5月)。 さらに、戦前期に理想的人格として語られた日蓮に関する言説分析の成果を日本宗教学会第81回学術大会で報告した(「「英雄日蓮」と修養―偉人崇拝としての宗祖像」、2022年9月)。近代日本の自己形成と宗教に関しては、修養概念に着目した研究成果を単著として刊行した(『「修養」の日本近代 自分磨きの150年をたどる』NHK出版、2022年8月)。 年度後半には、女性による宗教の「語り」に関して国際シンポジウム「近代日本の仏教と文学」で報告した(「仏教婦人の肖像―九條武子の短歌と教化」日本学研究会第4回学術大会、2023年2月)。さらに、「修養と教養の岐れ道―明治から大正期を中心に―」と題する報告を「大正・昭和戦前期を中心とする教育と近代仏教に関する学説史的・実践的考察」第4回公開研究会に招待されて行った(2023年3月)。 これらの作業により、変動する社会のなかで教祖の「語り」がいかに変化したのかを、近代日本の自己形成やジェンダーの問題と絡めて明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、図書館等での資料収集や調査を計画通り進めることができ、研究課題に関わる成果を学会や研究会で発表し、論文を執筆した。また、次年度に取り組む女性教祖や女性と宗教の「語り」に関わる資料収集も開始でき、研究成果の報告もできた。さらに、「修養」という新たな観点から、近代日本の自己形成と宗教の関係を考察し、研究成果を単著として刊行することができた。 この観点は当初予期していたものではなかったが、研究を進めていくなかで、偉人崇拝を特徴とする修養ではしばしば、理想的人格として「改革者親鸞」や「英雄日蓮」といった言説とともに教祖の人物像が掲げられ、人々が目指すべきとされ、身につけるべき精神性として教祖が語られてきたことが分かった。そのため、本研究が課題とする教祖と性の問題として、近代日本における教祖イメージの形成と修養に関しても引き続き考察を進める。 また、昨年度後半から、女性教祖の人物像形成と、女性による宗教の「語り」に関して、新宗教の女性教祖の伝記および、岡本かの子の言説の検証に取り掛かったが、本年度は宗教教団における「家庭」や「夫婦愛」といったジェンダー的価値観を通した女性の自己形成の問題に着目し、九條武子と仏教婦人会を中心に考察することとした。 関連分野の研究者との意見交換・情報収集についてもオンラインを活用するなどして研究を遂行しており、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度前半はまず、近代社会における教祖イメージの発信と受容に着目し、戦前期のラジオで放送されていた仏教関連の講座番組を調査し、リスト化してその傾向や内容を分析する。この研究成果は学会にて報告を予定している。 上記と並行して、教祖像と自己形成が結びついた男/女というジェンダー的価値の検討に取り掛かる。焦点となるのは、歴史上の人物としての教祖イメージが、いかに教団や社会集団の理念と結びついてきたかである。検証を通して、男性に求められる「男らしさ」や「力強さ」、女性に求められる「良妻賢母」「貞淑さ」などの価値観が、宗教と関連した「語り」とどのように結び付けられてきたのか、その実態を明らかにする。男性の自己形成については、前年度までに行った教祖像と男性性に関する研究成果を踏まえてさらに考察をすすめ、女性については、新宗教とジェンダーに関する先行研究の成果を援用しつつ、女性教祖の伝記および仏教婦人会関連の資料から、女性に求められる振る舞いや人格が、教祖像や教団の価値観とどのように結びついてきたのかを検証する。 なお、年度の前半には、大正期に親鸞を題材にした小説を発表し、海外との交流を通して宗教言説を盛んに発信していた三浦関造の思想形成について、国際会議での報告も予定している。 年度の後半には、これまでの研究成果のまとめとして学会でパネルを組み、教祖像をめぐる総合的議論を行う。 これらの作業を通して、本研究課題が目的とする教祖の「sexuality」を通した近代日本仏教における教祖像形成のプロセスを整理する。出版やラジオといったメディアとの関連も踏まえ、主に親鸞と日蓮にまつわる「性欲」「英雄」言説の変遷と、そこでの歴史研究と文学の相互関係の有無、男女の自己形成と教祖像の結びつきに関する研究成果をまとめ、教祖像形成における性の位置づけについて総括を行う。
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