2021 Fiscal Year Annual Research Report
表裏異方弾性履帯の形状適応により複雑凹凸地形でも超高走破性を示す単輪クローラ機構
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21J22877
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小澤 悠 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 移動ロボット / クローラ / 災害ロボティクス / 非線形梁 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、弾性履帯の変形を非線形梁の大変形理論に基づいてモデリングすることで、単輪クローラ機構が車輪径よりも大きな障害物を乗り越えるメカニズムの解析を行った。具体的には本機構の履帯を完全弾性体のループとみなし、複数の片持ち梁に分割して幾何拘束から各梁の変形を求めることで、本機構が段差障害にグローサをアンカリングする際の履帯全体の変形を計算し、乗り越え可能な段差高さを導出した。また、モデルにより導出された乗り越え可能段差高さの理論値を実機実験による実測値と比較することでモデルの妥当性を検証した。本モデルの構築により、目標障害高さに対する本機構の設計指針を得た。 弾性履帯の裏または表に小さい弾性体片を多数配置することで、曲げ方向によって異なる大きさの弾性を発揮する表裏異方弾性履帯を開発した。実機実験により、本機構の段差・溝乗り越えに対する有効性とトラクションへの寄与を検証した。 より実用に向けた研究開発として、欧州研究・イノベーションプログラム Horizon 2020 における小型探査群ロボットシステムの開発プロジェクト「CURSOR」にて、考案した単輪クローラ機構を搭載したを探査ロボットを開発した。開発したロボットは兵庫・フランスの訓練施設内の模擬瓦礫において試験され、実環境での走行能力が検証された。試験は現地のファースト・レスポンダー(消防など,災害の初期対応者)と共同で実施され、本ロボットの運用上の課題やより効果的な活用方法について、災害対応の専門家の視点を交えた建設的な議論を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
弾性履帯の変形の解析においては当初の計画通り、弾性履帯の変形を複数の片持ち梁に分割して考えることで、段差にグローサ(履帯上の突起)をひっかける際の履帯の形状を導出するモデルを構築した。また、構築したモデルにより単輪クローラ機構が乗り越えることのできる段差高さの理論値を算出することが可能となった。実際に金属円環にモデルと同様の拘束を与えて変形させ、モデルが導出した履帯の形状と比較したところ、それらは良く一致した。また、モデルが算出する乗り越え可能段差高さの理論値を実機実験による実測値と比較し、概ね傾向が一致することを確認した。さらに、実機実験から本モデルによる乗り越え可能段差高さの理論値と実測値に差が生まれる重要な要因が分かった。構築したモデルと実機実験の結果から目標の段差高さを乗り越え可能な単輪クローラ機構の設計手法を得た。 当初計画していた内容に加えて、昨年度は単輪クローラ機構を実際に搭載した探査ロボットの開発を前倒しで行った。開発したロボットは2回の屋外瓦礫環境試験を経て改良され、研究室環境では見られない実用上の課題が多く発見された。また、試験をファーストレスポンダー(消防などの、災害の初期対応者)と共同で行うことで、災害対応の専門家の視点からの本機構の課題や、現状の救助活動を考慮したより効果的な本探査ロボットの運用方法などについての建設的な議論を行うことができた。 全体として昨年度は、計画していた研究だけでなく研究成果の応用にまで踏み込むことができ、多くの成果を得られた考える。しかし、現在2本の論文が査読中であり、掲載済みまたは掲載が確定している成果は多いとは言えないので、区分は(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で単輪クローラ機構の具現化とモデルによる履帯の変形解析を行い、本機構の基本的特性について知見を得ることができた。しかし、現状のモデルが想定する環境は単純なステップ状の地形であり、変形解析は2次元平面上で行うため、その適用可能範囲は限定的である。今後は物理演算ソフトを用いた3次元シミュレーションにより、より実用的な条件下での履帯の挙動を解析する。具体的には、本機構を左右に1ユニットずつ備えた探査ロボットが複雑な地形を移動する際の、履帯を含めたロボット全体の挙動を解析する。シミュレーション内の地形としては凹凸、溝、坂などの瓦礫環境に見られる基本的な障害を用意し、各障害を乗り越える際の履帯の変形や力の相互作用を解析する。また、それらについて、履帯の設計パラメータ(長さ、幅、剛性等)を変えた際の影響を調べる。さらに、様々な形状の障害を組み合わせたランダム地形でのシミュレーションにより本機構の不整地移動能力を評価し、これを用いて履帯設計の最適化を行う。シミュレーションによって得られた履帯の設計パラメータを実際に単輪クローラ機構に適用し、実機実験によりシミュレーションを評価する。また、これらのシミュレーションおよび実機実験は表裏異方弾性を付与した弾性履帯に対しても行い、通常の弾性履帯と比較することで表裏異方弾性履帯の不整地移動における有効性を検証するとともに、表裏異方弾性体特有の物理現象を明らかにする。 また、これまでに開発した単輪クローラ機構を適用した小型探査ロボットについては、引き続き屋外での模擬瓦礫走行試験と改良を繰り返し、実環境で運用する上での課題の解決に努める。
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Remarks |
(1)は本研究の成果である単輪クローラ機構を搭載したロボットの屋外走行実験をEUの諸研究機関と共同で行った際のもの。動画作成時点で非公開であったため、動画中には車輪型のロボット(本研究の範囲外)のみが移っているが同様の実験を単輪クローラ型のロボットにも実施した。国際共同研究者としては、実験参加者全員ではなく、開発時から本研究に深くかかわったSINTEF digitalのみ記載した。
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