2021 Fiscal Year Annual Research Report
東日本大震災後における仏像の役割―誰もが仏像を作れる時代の信仰のかたち―
Project/Area Number |
21J40124
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
君島 彩子 東北大学, 国際文化研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 仏像 / モニュメント / 物質文化 / 慰霊碑 / 巡礼 / 観音 / 地蔵 / Material Religion |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は日本彫刻史の空白を埋めるだけでなく、個別の宗教性、つまり個人の経験や社会的背景によって生まれた仏像に対する信仰を明らかにすべく、近代以降に制作された仏像をモニュメント研究の文脈から考察することを試みてきた。本課題では東日本大震災の被災地において仏像や宗教的意味を有するモニュメントという物質文化が果たした役割について検討を行っている。仏教寺院や墓地に安置された震災に関連した仏像、震災の被害にあった仏像の再生される過程、仏教者が深く関わった震災モニュメント、仏像に関わる宗教儀礼について包括的に調査を進める。特に重視しているのは以下の5つの視点である。 津波の被害が激しかった地域における自然発生的に形成された祭壇が恒久的なモニュメントへと変容する過程の検討。震災モニュメントとして建立された観音と地蔵の比較検討。東日本大震災後には仏像の制作に市民が参加する新たな活動が生まれているため、市民参加型の仏像制作について考察することで、仏像彫刻が趣味としても普及している時代における「物質文化として仏像」の信仰形態を検討する。また僧侶による仏像型モニュメントの開眼供養や、仏像を活用したボランティア活動についてもあわせて検討をおこなう。最後に壊された仏像が修復されることによって新たな意味付けがなされることも多いことから、「仏像の再生」、さらに三十三観音巡礼などの巡礼が震災後に再生された事例について検討をおこなう。 上記のような複数の事例を比較検討する物質文化研究によって、現代社会における多様な宗教の役割を可視化できるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度、前期は新型コロナウィルス感染症流行の影響もあり、予定していた聞き取り調査や巡礼の同行調査が出来なかったが、図書館等での資料調査を中心に研究を進めた。パンデミック下における仏像に関する報道が増えたことで、同時代的な研究が可能となった。10月以降は宮城県、福島県、山形県においてフィールドワークをおこない、主に寺院境内に建立された仏像、震災や戦争に関係するモニュメントの調査を進めた。また本研究における重要なテーマのひとつである美術概念の影響を明らかにするため、博物館や美術館において関連する展覧会の見学をおこなったほか、一部の美術館では収蔵庫内の調査もさせていただいた。これらの研究の成果の一部は、日本宗教学会と近代史仏教史研究会の学術大会における口頭発表をおこなったほか3回の公開シンポジウムでも口頭発表をおこなった。また学術団体の雑誌に論文を掲載したほか、単著、共著書の教科書、新聞・雑誌に掲載された論考においても本年度の調査・研究成果を踏まえた執筆をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
・福島県下の海岸部を中心に防潮堤工事終了後の仏像とモニュメントの様子を調査するとともに、原発事故によって帰宅困難となっていた地域においても仏像が建立されているのか、また、津波の被害が大きかった地域と差異があるのか調査を行う。この過程で関係者からの聞き取りを行う。 ・「宗教と社会」学会において、東北地方における石の地蔵に対する儀礼と信仰について口頭発表を行なう。公共空間における宗教的造形物の役割と政教分離に関する考察を論文化し『宗教研究』に投稿する。 ・「祈りの道プロジェクト」が主催する気仙三十三観音巡礼の調査。気仙地域での仏像の再調査を行う。気仙地域は津波の被害が大きく、防潮堤の工事によって海岸線が大きく変化している。このため、2013~2016年に行った調査から変化している可能性もあり、その変化も含めて実地調査を行う。また関係者を特定し、仏像に関する聞き取りを進める。 ・日本宗教学会学術大会においてパネルセッション「震災伝承の宗教性」に参加。気仙三十三観音巡礼の事例を中心に被災地支援を行なう宗教者と仏像の関わりについて口頭発表を行なう。 ・3月11日前後に行われる仏像周辺で行われる慰霊祭や法要に参加、関係者の把握を行い今後の聞き取りにつなげる。
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