2022 Fiscal Year Annual Research Report
計測と数理解析から探る生化学反応を伴う細胞内の力学解明と生きた構成則の構築
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22J00060
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
齋藤 匠 東北大学, 医工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 生体分子計測 / 光褪色後蛍光回復法 / 分子張力センサー / 細胞力学 / グルコース代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内の分子代謝メカニズム解明は、細胞生物学だけでなく、その病理的・医学的観点からも重要である。そこで我々はモデル生物である線虫と蛍光ラベルされたグルコースを用いた。線虫の腸内蛍光グルコース代謝を、顕微鏡技術(光褪色後蛍光回復法)を用いて計測した。その結果、腸内のグルコースが腸管と腸細胞の境界である微絨毛(ナノスケールの微細構造を持つ)に蓄積されていることを明らかにした。さらに、微絨毛におけるその拡散係数が、バルクのそれよりも遅いことを発見した。すなわち、この微細構造の見かけの粘性が水中よりも十分に高いことを示した。また、グリセロール中の蛍光グルコースの拡散係数計測から、蛍光グルコースの分子サイズがグルコースのそれよりも3倍程度大きいことを明らかにした。 さらに、留学先(Yale University, School of Medicine)にて一分子にかかる張力の計測技術開発を行った。我々の張力センサーはアミノ酸構造物であるcoiled-coilを用いてる。そのため、センサーモジュールのサイズは一般的な分子サイズよりも小さく、それらの機能・構造への影響が小さい(これまでの代表的な張力センサーのサイズは対象分子程度あるいはそれ以上)。遺伝子組み換えが簡単な分裂酵母(fission yeast)をモデル生物として用いた。分裂酵母は細胞分裂時にcytokinetic ring(CR)と呼ばれる分子高次構造物をつくる。我々は、CRに関与する分子: Formin (Cdc12)が数pNの張力を支持していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子代謝は分子の機能発現に重要であり、生命にとって必要不可欠な機能である。我々はこれまで細胞内の分子代謝、特に力学が関わる分子交換メカニズムの解明に取り組んできた。それらの成果を学術論文としてまとめることができた。また、新しくグルコースの腸内代謝に焦点をあてて研究を進めてきた。モデル生物である線虫内の腸内、とりわけこれまで計測が困難であった腸管ー腸細胞間の微細領域におけるグルコースの拡散係数の直接計測に成功した。また、留学先(Yale University, School of Medicine)では、分子スケールの張力計測技術の開発を始めている。以上の理由から、我々の研究は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞内の分子張力計測を目標に、新たな分子張力センサーの開発にたずさわっているが、現状その校正・試験にとどまっている。さらに、この張力センサーには時間分解能がない(可逆的に力を感知できない)。今後は、時間分解能を持つようにこの張力センサーの改良が求められる。また、生細胞内の特定の分子を標的に本センサーを挿入し、張力計測から新たな分子メカニズムの解明に取り組む。
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