2022 Fiscal Year Annual Research Report
細胞加工ゲルチューブを用いた腸・血管・リンパ共培養による腸内細菌共生人工腸の構築
Project/Area Number |
22J01133
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
板井 駿 東北大学, 医工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 人工腸モデル / 陰窩構造 / 血管新生 / 気泡形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、申請者が開発した容易に灌流可能なチューブ状人工組織モデルを利用し、世界に先駆けた腸内細菌共生人工腸モデルの構築を目指している。まず、血管新生時の細胞によるゲルの掘削を利用することで、人工的には作製が難しかった3次元の腸の陰窩構造を形成する。その後、多重チューブ内に腸組織とリンパ組織・血管組織の共培養を行い腸モデルを形成する。この世界初のデバイスに腸内細菌を移植することにより、生体と同環境の人工腸が作製され、疾患状態の腸の再現とそれを用いた病態解明・治療薬開発を可能とすることを目指している。 2022年度は、研究計画1年目にあたる陰窩様凹凸内壁を持ったコラーゲンチューブの形成および腸上皮組織の構築を行った。 凹凸形状の構築に関しては、まず血管新生を利用した手法によりゲルの掘削が確認され、培養日数や血管内皮増殖因子(VEGF)の濃度によりその深さを制御可能であることが示された。しかし、その形状の不均一性や制御の難しさから、所望の幅の凹凸の構築は容易ではないと考え、新たに電気分解によるゾル溶液内への気泡生成を利用した手法を考案した。具体的には、コラーゲンチューブの構築過程で、ゲル化する前のゾル状態のコラーゲン溶液に電極から電圧を印加することにより気泡を生成し、直後にゲル化させることで凹凸形状を構築する。気泡のサイズは印加電圧や電極の親水性によって制御され、生体内の陰窩構造と同程度の寸法の凹凸形状を形成することに成功した。 さらにヒト結腸癌由来細胞(Caco-2)を用いた実験により、凹凸内壁上に腸様組織の構築が確認され、細胞間にタイトジャンクションが発現していることも免疫細胞染色により確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画1年目の目的は、陰窩様凹凸内壁を持ったコラーゲンチューブの形成および腸上皮組織の構築であった。 凹凸形状の構築に関しては、計画にあった血管新生を利用した手法によるゲルの掘削には成功したが、その形状の不均一性や制御の難しさから、所望の幅の凹凸の構築は容易ではないと考え、別手法へ方向転換することを決断した。これにより研究進捗に遅れが出る可能性もあったが、機械的・電気的・化学的に様々な手法を検討した末に考案した「電気分解によるゾル溶液内への気泡生成を利用した手法」が非常に順調に確立でき、制御性などの面でも要求されるクオリティを十分に満たすものであったため、計画に遅れを生じることなく陰窩様凹凸形状コラーゲンチューブの開発を達成した。 さらにヒト結腸癌由来細胞(Caco-2)を用いた実験も行い、凹凸内壁上に腸様組織の構築が確認された上、細胞間にタイトジャンクションが発現していることも免疫細胞染色により確認されるなど、培養面でも成果が出始めており、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は上記の研究進捗に加え、より生物学的な解析、より実用的なモデル形成を行うため、組織の切片作製や解析す方の習得、iPSの培養や誘導技術の習得も行っていた。それらを活かし、次年度初頭はまず凍結切片の免疫染色による腸組織の極性評価や、iPS由来細胞を用いての組織形成を行う。これらが達成され組織の生物学的なクオリティが担保されることは、その後の菌との共生培養や免疫機能の発現において重要な意味を持つ。 これを達成したのち、2年目の計画にあった「リンパ組織形成による腸内細菌と共生可能な環境構築」および「多重チューブを用いた絨毛内への毛細血管網構築」を行う。まず、分化したリンパ球をコラーゲン内に封入しリンパ組織含有チューブを構築する。その後、腸上皮組織との共培養により、リンパ組織からIgA抗体(腸組織と腸内細菌の間のバリアとして共生バランスを保つ)を産生させ、腸組織と腸内細菌が共生可能な環境を構築する。この際、抗体の産生量や保護層の構築が重要となるため、ELISA法等を用いた抗体量評価を行うことで共生可能な環境の形成を確認する。また、血管網と腸組織の共培養に向け、チューブを束ねた多重チューブデバイスの開発も行う。
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