2022 Fiscal Year Annual Research Report
海水温変動が沿岸生態系のレジームシフトを発生させる原理の力学系理論に基づく解明
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22J11460
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
行平 大樹 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 沿岸生態系 / レジームシフト / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境変動により生態系を構成する種組成などが急激に変化する現象はレジームシフトと呼ばれる。レジームシフトは生態系の安定性が環境変動によって失われることで生態系の変動パターンが変化する現象であると理論的に説明されてきたが、実際のデータから生態系の安定性などを定量して検討した研究は多くない。本研究は、海水温変動が引き起こす沿岸生態系のレジームシフトに着目し、レジームシフトが発生する原理を力学系理論に基づいて解明することを目的とする。 具体的には、2017年8月から続く黒潮大蛇行と呼ばれる海流の大規模な変動に伴う海水温分布の変動が日本沿岸の生態系のレジームシフトを発生させる可能性に着目する。日本沿岸の多地点の環境DNA時系列データを対象に非線形時系列解析という手法を用い、レジームシフト発生に伴う力学系のアトラクター(力学系の変動パターン)の遷移や安定性の変化がみられるかを検討する。 非線形時系列解析による理論的検討を行うためには実際に海水温変動によりレジームシフトが発生した地点を特定する必要があるので、初年度の研究は、日本沿岸の多地点・多種の環境DNA時系列データを用いて、黒潮大蛇行前後で日本沿岸の生態系でレジームシフトが実際に発生したかを記述的に検討した。具体的には、各地点で黒潮大蛇行前後での各生物種の在・不在のパターンに注目して次元削減によって群集全体の変化を可視化した。さらに、種の在・不在のパターンの変化が海水温変動により引き起こされたものかどうかを検討するため、各地点で種の在・不在の時間的変化が海水温変動の影響を受けると想定した統計モデルを用いて時系列解析を行った。その結果、いくつかの地点で海水温変動が各生物種の存続率に影響を与えることを通じて種の在・不在に影響を与えている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は日本沿岸の多地点における時系列解析の結果の比較を行うが、時系列解析を行うためには十分な長さの期間にわたる環境DNAデータが必要である。本研究は環境DNA観測網を通じて収集されるデータを利用するが、多くの地点で十分な長さのデータが利用可能となったのは初年度の後半以降だったため、種の在・不在のパターンと海水温変動の関係を検討する時系列解析は一部の地点でしか行われていない。本研究は、海水温変動が引き起こすレジームシフトに特に注目しているので、レジームシフトの発生が示唆されている地点であっても海水温変動と生態系の状態の変化との関連が見られるかどうかを特に詳細に検討する必要があるので、可能な限り多くの地点で解析を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度では、まず初年度の研究で注目した海水温変動と種の在・不在のパターンの関係についての結果を論文化する予定である。そして、海水温変動と種構成の間の関連がみられた地点を中心に、非線形時系列解析の手法によって生態系の安定性の変化を定量し、海水温変動が生態系の安定性の変化を引き起こしていたのかを検討する。さらに、レジームシフト発生時に実際に生態系のアトラクターの遷移が生じたかを検討する。最終的な研究成果は、国内の学会で報告するほか、論文としてまとめる予定である。
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