2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J12927
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
淺野 雄輝 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 小脳 / バーグマングリア細胞 / プルキンエ細胞 / 攻撃行動 / 社会行動 / 行動解析 / オプトジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、攻撃行動を制御する脳内メカニズムを明らかにすることを目的とする。人類を初めとする社会性生物は、攻撃衝動を抑えることで円滑な協力関係を築くとともに、適度な攻撃性を保つことで競争社会を生き抜く。本研究では、運動制御に関わると知られる小脳が、社交性とも関連するという最新の知見をもとに、攻撃性を制御しているのは小脳のグリア細胞であるとの仮説を検証する。 2022年度において、記録する雄マウスを1週間程度雌マウスと同居させた後、雌マウスを取り除き、雄マウスをケージに侵入させると、多くの場合レジデント雄マウスの攻撃が惹起されることが観察された(レジデント-侵入者パラダイム)。当初の課題として、レジデント雄マウスの光ファイバーがかじられてしまうなどの問題があったが、光ファイバーを守る仕組みを開発する等の工夫により、安定的に長期記録が取れるようになった。 このパラダイムを用いて、レジデントマウスが他のマウスと社会的な接触をする時、相手マウスから攻撃を受ける時、相手マウスを攻撃する時、それぞれの場合に、小脳バーグマングリア細胞内のCa2+やH+のイオン環境や小脳での局所脳血流量等がどのように変化するのか計測した。実験の結果、マウスによる攻撃行動は10秒程度の戦闘期間(ラウンド)で構成されることが多く、ラウンド終了時前後で小脳バーグマングリア細胞のCa2+濃度が上昇して数十秒程度維持されると示された。グリア細胞のCa2+濃度上昇により、グルタミン酸等の興奮性伝達物質が放出され、近傍のプルキンエ細胞が刺激される可能性があり、実際に攻撃行動中にプルキンエ細胞を直接電気刺激したところ、ラウンドが短縮されることが示された。今後の方針として、グリア細胞の直接操作が攻撃行動にどのような影響を与えるかを検証する。本研究の一部は、第45日本神経科学大会(2022)で第一著者としてポスター発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の実験においては、1: マウス攻撃行動の定量化、2: 光遺伝学を活用した小脳グリア機能計測とレジデント-侵入者パラダイムの並行実施システムの構築、3: 小脳局所フィールド電位記録 といった攻撃行動-小脳機能同時計測実験系を確立した。これらの結果は、当初の計画よりも進んでいるといえる。 1: について、マウスの攻撃行動は、10秒程度の戦闘期間(ラウンド)で構成され、さらにラウンド内において攻撃(Fight)、逃避(Flight)の期間が相互に訪れると示された。 2: について、光遺伝学による小脳グリア機能計測と並行して攻撃行動を計測するにあたって、当初の課題として、攻撃行動の発生が安定しない点、光ファイバーが侵入者マウスによってかじられてしまうなどの問題点があった。そこで、本実験においては侵入者マウスの体重等を工夫したこと、光ファイバーを守りつつ計測を行う仕組みを開発することで、安定的に長期記録がとれるようになった。 3: について、小脳局所フィールド電位記録を用いることで、小脳唯一の出力経路であるプルキンエ細胞の活動を計測できるようになった。攻撃終了後の局所フィールド電位を解析したところ、15 Hz近傍の周波帯域の振幅が上昇することが示された。プルキンエ細胞は抑制性の神経細胞であるため、腹側被蓋野(VTA)のドーパミン神経細胞を抑制する作用があり、プルキンエ細胞の活動が上昇すると攻撃行動が抑制されるメカニズムが考えられた。 さらに、その過程において 4: 小脳電気刺激、5: 薬理学的小脳 In vivo/vitro 投与、6: オプトジェネティクスによる小脳グリア機能操作 といった小脳グリア機能操作手法の確立に至った。これら操作手法を活用した実験は、次年度取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の展望として、所属研究室が保有している小脳バーグマングリア細胞にChR2、ArchT等のオプトジェネティクス分子を発現する遺伝子改変マウスを用いて、グリア機能を光操作した場合、攻撃行動が影響されるかを明らかにすることを試みる。 これまでの結果から、マウスによる攻撃行動は10秒程度の戦闘期間(ラウンド)で構成されることが多く、ラウンド終了時前後で小脳バーグマングリア細胞のCa2+濃度が上昇して数十秒程度維持されることが示された。このようなグリア細胞のCa2+濃度上昇が引き金となって、グリア細胞からグルタミン酸等の興奮性伝達物質が放出され、近傍のプルキンエ細胞の発火頻度上昇が維持される可能性がある。プルキンエ細胞は抑制性の神経細胞であるため、腹側被蓋野(VTA)のドーパミン神経細胞を抑制する作用があり、プルキンエ細胞の活動が上昇すると攻撃行動が抑制されるメカニズムが考えられた。そこで、攻撃行動中にプルキンエ細胞を直接電気刺激してみたところ、戦闘ラウンド時間が短縮されることが示された。 そこで、2023年度においては、グリア細胞を刺激した場合にマウスの攻撃行動に変化が現れるかを検証する。実験には、マウス小脳に光ファイバーを刺入し、グリア細胞に発現させたオプトジェネティクス分子を特定の波長の光を用いて刺激・抑制を行う。光操作を行うために、特定の波長の光を発生させる光源及び光フィルター用のオプティカルブロックを組み合わせ、系統ごとに刺激を行う。また、光操作時にプルキンエ細胞の発火頻度の増減を確認するために、電気生理学用の電気記録アンプを使用予定である。
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Research Products
(1 results)