2022 Fiscal Year Annual Research Report
薄膜エピタキシーによる重元素ニクタイド正方格子単結晶の電子物性の開拓
Project/Area Number |
22J14507
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山本 裕貴 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 層状物質 / Sb正方格子 / エピタキシャル薄膜 / 薄膜成長 / 多層膜固相エピタキシー |
Outline of Annual Research Achievements |
参画している国際共同大学院の留学制度を利用して、2022年4月から10月の間、独ダルムシュタット工科大学のProf. Lambert Alff研究室に留学し、分子線エピタキシー法を用いたLa2O2Sbエピタキシャル薄膜の合成を行った。合成条件を最適化することで、MgO(001)基板上にLa2O2Sb(001)エピタキシャル薄膜の直接成膜に初めて成功した。これまで用いてきた多層膜固相エピタキシーによる作製では、試料内部の結晶化されていない領域が基礎物性に及ぼす影響が不明であった。MBE法は直接成長であるため、そのような懸念なしに基礎物性を評価でき、薄膜の膜厚依存性を解明できる。今後これによりエピタキシャル応力の影響を調査することで、La2O2Sbにおけるバルクと薄膜の大きな抵抗率変化の起源の解明を目指す。 また、異なる単結晶基板を用い、多層膜固相エピタキシー法によるLa2O2Sbエピタキシャル薄膜の合成を試みた。結果としては、MgO(001)基板のみで単相のLa2O2Sb(001)エピタキシャル薄膜が得られたが、それ以外の基板では、不純物相などの形成により、La2O2Sb(001)エピタキシャル薄膜を単相で得ることはできなかった。これは、良好な格子ミスマッチだけではなく、前駆体多層膜とは反応しない基板を活用することが、多層膜固相エピタキシー法によるLa2O2Sbエピタキシャル薄膜の合成に重要であることを示唆する。 予想外の展開として、上述した異なる単結晶基板を用いたLa2O2Sbエピタキシャル薄膜の合成条件の最適化の過程で、LaSb(001)エピタキシャル薄膜を初めて得ることに成功し、LaSbのバルク単結晶と同程度の低い電気抵抗率を示した。なお、このLaSbに関する結果は、Chem. Lett.誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施計画の通り、独ダルムシュタット工科大学のProf. Lambert Alff研究室に留学し、分子線エピタキシー(MBE)法を用いて、MgO(001)基板上にLa2O2Sb(001)エピタキシャル薄膜の直接成膜に初めて成功した。直接成長であるため再蒸発の影響を大きく受け、薄膜中のSb比率の制御は困難であった。従来の固相エピタキシー法による薄膜と比べMBE法で得られた薄膜はSb欠損の比率が大きかった。また、ロッキングカーブの半値幅は同程度であった。つまり、スパッタ法を用いた多層膜固相エピタキシーとMBE法で得られた薄膜は同程度の結晶性であり、多層膜固相エピタキシーの有用性を示せた。一方で、多層膜固相エピタキシーでも、単結晶基板の選択が重要であり、良好な格子ミスマッチだけではなく、前駆体多層膜とは反応しない基板を活用することが、La2O2Sb薄膜の合成に重要であることが明らかになった。予定していた透過電子顕微鏡測定では、薄片化の過程で試料が劣化してしまい、原子像が観測できなかった。引き続き、La2O2Sb薄膜のSb二量化の有無を調べられる実験手段を検討していく。 なお、異なる単結晶基板によるLa2O2Sb薄膜の合成の過程で、LaSb(001)エピタキシャル薄膜を合成できることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、独ダルムシュタット工科大学のProf. Lambert Alff研究室に留学し、分子線エピタキシー法を用いて、La2O2Sbエピタキシャル薄膜の直接成膜に成功した。そこで今年度は、まず、このLa2O2Sbエピタキシャル薄膜の電気輸送特性を評価し、多層膜固相エピタキシー法で得られたエピタキシャル薄膜のデータと比較し、結晶性の高さと抵抗率の関係など、La2O2Sbを直接成膜する分子線エピタキシー法の長所と短所を明らかにする。さらにラザフォード後方散乱法により化学組成の深さ分析を行い、薄膜中のOやSbの欠損量を明らかにする。放射光X線回折や透過電子顕微鏡観察などの先端計測も活用し、ニクトゲン正方格子内における二量体形成の有無と電気輸送特性の関係性を明らかにする。 さらに、多層膜固相エピタキシー法を用いて、La2O2Sbと同じ結晶構造のLa2O2Biエピタキシャル薄膜を合成する。また、基板、前駆体多層膜の構造、反応温度を制御し、La2O2Biエピタキシャル薄膜の高品質化をめざす。得られたLa2O2Biエピタキシャル薄膜については、結晶構造・化学組成を評価する。X線光電子分光測定を用い、-2価の異常原子価が期待されるBiの価数を評価する。さらに、電気輸送特性・光学吸収特性を評価し、La2O2Biのイントリンシックな物性を明らかにする。同時に、La2O2Biのバルク多結晶では、p型キャリアの高移動度が報告されていることから、エピタキシャル薄膜化によるさらなる移動度の向上をねらう。
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