2022 Fiscal Year Annual Research Report
ブリルアン・ラマン同時イメージングによる細胞内局所環境のラベルフリー定量の実現
Project/Area Number |
22J20277
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柴田 大輝 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 液-液相分離 / ラマン散乱 / ブリルアン散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は細胞内の液液相分離(LLPS)の物性解明を目的とする。細胞内のLLPSとは、あるタンパク質が液滴と呼ばれる非常に高濃度の構造物を形成する現象を指し、ストレス応答や酵素反応など様々な生理現象に関与するとされる。さらに、神経変性疾患において、LLPSはタンパク質の線維凝集の前段階であると提案されている。本研究では、ラマン散乱とブリルアン散乱を組み合わせた新たなイメージングシステムを用い、液滴内の水の量、タンパク質濃度と構造、動的変化のラベルフリー定量の確立を目的とする。液滴、ゲル、線維を定量的に判別し、線維化を示す液滴の共通性質を解明する。 本年度の研究では、神経変性疾患関連タンパク質として、マチャド・ジョセフ病の発症に関与するポリQタンパク質であるアタキシン3を用いて、タンパク質液滴の経時変化を観測した。タンパク質液滴は数マイクロメートル程度の大きさのため、液滴内部を詳細に解析するためには、高い空間分解能が要求される。そこで、はじめに高開口数の対物レンズを用いてゼラチンの測定を行い、ブリルアンスペクトルが過去の報告と同一の傾向を示すことを確かめ、高い空間分解能で液滴を観測できることを確認した。 続いて、緩衝溶液中でタンパク質液滴を作成し、その経時変化をブリルアン・ラマンスペクトルの同時測定により追跡した。液滴のブリルアンスペクトルに波数の異なる2つのピークが観測されたことから、液滴内に液体様成分と固体様成分が共存することがわかった。時間経過に従い、固体成分に由来すると考えられるバンドの強度が増加したが、ラマンスペクトルのアミドIバンドのシフトはブリルアンスペクトルの変化に対して遅れていることを検出した。このことから、液滴の相転移が生じてから多段階でタンパク質のβシート化が進んでいることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、緩衝溶液中でタンパク質液滴を作成し、その経時変化をブリルアン・ラマンスペクトルの同時測定により追跡した。タンパク質液滴は数マイクロメートル程度の大きさのため、液滴内を詳細に解析するためには回折限界に近い高い空間分解能が必要である。しかし、ブリルアンスペクトルは高い開口数を持つ対物レンズを用いて測定した場合、信号が歪むことがあるとされている。そこで、はじめに開口数の対物レンズを用いてゼラチンの測定を行い、ブリルアンスペクトルが過去の報告と同一の傾向を示すことを確かめ、高い空間分解能で液滴の物性を調べるうえで本研究に用いている実験系が十分であることを確認した。 また、タンパク質液滴としてアタキシン3の液滴を作成し、その経時変化を追跡した。液滴のブリルアンスペクトルに波数の異なる2つのピークが観測された。ブリルアンスペクトルの波数の違いは弾性の違いを表すことから、液滴内に弾性の異なる液体様成分と固体様成分が共存することを見出した。時間経過に従い、弾性の大きい成分のバンド強度が増加したが、ラマンスペクトルのアミドIバンドのピークシフトはブリルアンスペクトルの変化に対して遅れていることを検出した。このことから、液滴の相転移が生じてから多段階でタンパク質のβシート化が進んでいることがわかった。 以上の結果は、液滴、ゲル、線維を定量的に判別し、線維化を示す液滴の共通性質を解明するうえで重要な成果であると考えている。よって、本年度に遂行した研究は概ね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、タンパク質液滴の経時変化の観測を行った。ブリルアンスペクトルより液滴の粘弾性の経時変化を検出し、この変化がラマンスペクトルで観測されるタンパク質の二次構造変化の時間スケールとは異なることが示唆された。次年度は、本年度検出したタンパク質液滴の変化についてより詳細に解析を行い、液滴が線維へと変化する過程において、中間状態の定量的な判別を目指す。主に高分子化学の分野でゲル、ゾル等の状態が定義されている試料の測定を行い、特に相転移付近の状態を測定することで液滴のブリルアンスペクトルの解釈を進める。また、ThT蛍光など既にタンパク質の線維化の検出に用いられている手法や液滴状態を経由しない系で作成した線維を測定することで過去のタンパク質の線維化の研究との関連付けを行う。
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