2021 Fiscal Year Annual Research Report
海洋の生物過程による有機物凝集体強度の変動-凝集体の崩壊と沈降速度への影響評価-
Project/Area Number |
21J20420
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
林 靖人 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | マリンスノー / 強度 / 粒子間接着力 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋表層で有機物粒子の凝集により形成される大型の凝集体は、深層へと沈降することで炭素隔離に寄与している。粒子の沈降速度はサイズによって大きく変動するため、凝集体の崩壊による小型化は炭素隔離効率に大きく影響を及ぼす。凝集体の崩壊は、凝集体の強度を超える力が加わったときに生じるため、流れ中での凝集・崩壊を予測するには凝集体の強度を明らかにする必要がある。 令和3年度は、新型クウェットデバイスを用いた凝集体強度を測定する実験系の確立を試みた。クウェットデバイスを用いた長時間の実験により内部に形成される凝集体の分散が偏ることが明らかとなったため、粘土粒子を用いて凝集体の分散状況が粒子サイズに及ぼす影響を評価した。これにより、クウェットデバイス内での凝集体の位置の偏りがサイズに影響しないことが確認された。 その上で、新型装置の設計と凝集体の可視化プロセスの検討を行った。新型装置は沈降速度測定が行えるような変更とともに、作業が簡便なものとなるよう設計した。またこれまで市販のデジタルスチルカメラを用いて行っていた凝集体の可視化は、高いシア速度の条件での撮影を行うため、グローバルシャッター式の産業用CMOSカメラに変更した。高いシア速度の条件で形成される凝集体はより小さくなることが予想されたため、テレセントリック性能が高いレンズを導入し、照明をバックライト照明へと変更することで精度を高めた。 また、自然海水を培養し得られた生物由来粒子と粘土粒子について、旧クウェットデバイスを用いて粒子間接着力を測定し(生物由来粒子: 85 nN, 粘土粒子: 15 nN)、乱流中の凝集体サイズを推定する数値モデルに導入した。出力である凝集体サイズには生物由来粒子と粘土粒子とで二倍近くの差が生じることが予測され、乱流中の凝集体サイズに対して生物由来粒子の強度が大きく影響を及ぼすことを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、令和3年度中に新型クウェットデバイスを用いた実験系を確立することを目標としていた。しかし令和3年度に、クウェットデバイス内での凝集体の分散が長時間の実験により偏ることが明らかとなった。そのため凝集体サイズに及ぼす影響の評価を粘土粒子を用いて行う必要が生じたが、装置製作および実験系の確立については概ね予定通りに進んでいる。また、令和4年度に確認する予定であった凝集体強度への生物的な影響の概観について、自然海水を培養し得られた生物由来粒子について実験を行うことができた。培養開始より数日が経過し植物プランクトンの増殖により栄養塩が枯渇した際に強度が高くなること、また同じ時期にバクテリア細胞数が大幅に増加していることが明らかとなり、植物プランクトンおよびバクテリア両者の強度への貢献を定量化する必要性が示された。そのため、令和5年度に予定していた両者の強度への影響評価を、令和4年度中に行うことを検討している。 また、乱流中の凝集体サイズを推定する数値モデルに対してこれまでに得られた粘土粒子と生物由来粒子の粒子間接着力を導入し、乱流中の凝集体サイズに対して生物由来粒子の強度が大きく影響を及ぼすことが確認できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和3年度中に、実験手法を確立することに成功した。また自然群集を用いた培養実験によって、生物由来粒子の粒子間接着力が明らかとなったが、凝集体を構成する粒子が植物プランクトン由来のものであるか、バクテリア由来のものであるかを確かめることは難しい。そのため植物プランクトン、バクテリアそれぞれについて海洋凝集体強度への貢献を定量化する。このとき、クウェットデバイス内で形成された凝集体の沈降速度とともに凝集体ごとの高解像度の画像を取得することで構造を比較し、粒子の由来による構造の変動を明らかにする。凝集体強度は粒子特性と構造によって変動するため、これらを明らかにすることで海洋凝集体の強度が何を介してどのように変動するのかを明らかにする。 また海洋の流れ条件を考えたとき、乱流の影響を評価することが欠かせない。海洋の乱流条件は間欠的であり、崩壊に寄与しうる流体ストレスの発生は確率的であるといえる。乱流の構造による確率的な凝集体の崩壊を定量化するため、強度が明らかな凝集体を実験室内で等方性乱流にさらし、乱流強度ごとに崩壊に要した時間のばらつきを測定する。このため、前述した当初目的に沿った実験と並行し、新たな実験装置のテストと検証を行っていく予定である。
|
Research Products
(2 results)