2022 Fiscal Year Annual Research Report
老化細胞が引き起こす概日時計の時空間ダイナミクスの解明
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22J00270
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
増田 亘作 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 概日時計 / 老化 / 位相応答 / 時空間パターン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においては、まず、老化細胞の概日リズムの基礎パラメータ(周期、振幅、位相応答など)を定量的に評価するため、マウス胎児線維芽細胞の初代培養と細胞老化を除去する効果が知られるGlutaminase 1阻害剤(BPTES)を用いて、ルシフェラーゼアッセイにより時計遺伝子Per2の発現パターンの解析を行った。結果、BPTES投与下では大きくリズムの位相や振幅が変化しない一方で、デキサメタゾンに対する応答が増大する傾向がみられた。また、細胞老化関連因子として、細胞老化を誘導する過酸化水素、Doxorubicinや細胞老化関連分泌形質(SASP)の原因物質として知られるサイトカイン(IL6等)やケモカイン(IL8)などを投与し、概日リズムの位相応答を計測した。その結果、細胞老化誘導因子の多くが概日リズムの位相リセットを引き起こす一方で、SASP因子については明確な応答が見られなかった。このことから、細胞老化が概日リズムに及ぼす影響以上に、老化と概日リズムの乱れが共通した原因によって引き起こされている可能性が示唆された。 さらに、組織・個体レベルでの老化に伴う概日リズムの変調を評価するため、RNA-seqデータや脳波(EEG)を用いて、機械学習により老化マウスの概日リズムの位相を評価した。マウスの各組織のRNA-seqデータを用いた解析の結果、肝臓では老化に伴い昼間の位相がやや遅れる一方での夜間の位相がやや前進する傾向がみられた。また、EEGを用いてマウスの個体レベルでの概日リズムの位相を評価したところ、老化マウスでは昼間では概日リズムに大きな変化がない一方で、夜間において大きな位相の遅れが観察された。以上の結果は、老化がマウスの様々な階層で概日リズムの変調を引き起こすとともに、その影響が時間・空間的に異なることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画としては、細胞・組織培養により老化細胞の概日リズムの基礎パラメータ(周期、振幅、位相応答など)を定量的に評価することを目標とした。実験の結果、老化細胞、SASPの原因物質や老化細胞除去薬の概日時計への効果を確認できた。一方、マウス胎児線維芽細胞の初代培養では細胞老化により細胞の増殖速度が急速に変化することや、老化細胞除去薬の投与によっても細胞死を引き起こすことから細胞数などが安定せず、老化細胞の概日リズムのパラメータを定量化については十分に達成されなかった。 一方、当初の計画としては個体レベルの老化に伴う概日リズムの変化は3年間の研究を通して評価する予定であったが、機械学習を用いた概日リズムの評価手法や先行研究のデータを用いることにより、老化マウスにおける概日リズムの時空間的な変調が存在することが示されるなど、当初の計画以上の進捗が得られた。 以上の結果を総合して、現在までの進捗状況を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
老化細胞の概日リズムの基礎パラメータをより厳密に定量化するため、比較的時間変化が緩やかな継代回数の増加に伴う細胞老化を、試行回数を増やして計測することで、パラメータの定量化を目指す。また、当初の2年目の研究計画としては、培養細胞のイメージングによる細胞老化の時空間パターンの評価を目標としたが、イメージングによる老化細胞の一細胞レベルでのリズム計測を老化細胞のパラメータの評価にも活用する。その後は当初計画通り、得られた老化細胞の基礎パラメータをもとに、2次元および3次元状の配置した概日振動子集団モデルを構築し、老化細胞の発生が細胞集団全体の時空間ダイナミクスに及ぼす影響をシミュレーションにより評価する。特に、特徴的な時空間パターンが発生するための老化細胞の割合、空間的分布の条件を整理する。そして、細胞・組織培養でのイメージングと過酸化水素よる細胞老化誘導によって、組織内での老化細胞の発生条件の変化が、シミュレーションで予測された時空間パターンを引き起こすかの検証を行う。さらに、シミュレーションと実験において、温度等の環境刺激や老化細胞除去薬の投与により、時空間ダイナミクスをコントロールできるかの検証を行う。
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