2022 Fiscal Year Annual Research Report
超広帯域電気光学効果を用いた新規超高速走査型プローブ顕微鏡法の確立
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22J11423
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
市川 卓人 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 超高速分光 / 原子間力顕微鏡(AFM) / 光熱効果 / 電気光学(EO)効果 / 集束イオンビーム(FIB) |
Outline of Annual Research Achievements |
電気光学(EO)効果は電場の印加により生じる非線形分極を介して物質の屈折率が変化する現象であり,フェムト秒(1 fs = 10^-15 s)の応答速度を持つため超短パルス光の計測に用いられている.また,100 THz(1 THz = 10^12 Hz)を超える極めて広帯域な電場応答特性を持つEO結晶も存在する.本研究は,EO効果の優れた高速性と電場応答特性を利用した新規超高速原子間力顕微鏡(AFM),EO-AFMを開発することで,従来の超高速AFMの時間分解能の限界を越えた計測が可能な技術を確立することを目的としている. 当該年度では,EO結晶の加工によりAFM探針を成形する手法を確立した.具体的には,集束イオンビーム(FIB)により約70 THzの広帯域性を持つとされるGaP結晶を加工し,先端半径が約1 μmのピラミッド型探針が得られている.また,パルス時間幅の増大を回避するため反射鏡の組み合わせで構成された対物レンズを使用し,時間分解反射率変化信号によりGaPのEO効果に伴う屈折率変化がパルス時間幅(約30 fs)で実現されていることを確認した.さらに,対物レンズを用いた顕微鏡視野下における超高速分光により照射効果を調べることに成功し,その成果をPhys. Rev. Applied誌,および,国内学会にて発表した.この論文では,カンチレバー表面に蒸着されているアルミニウム薄膜における過渡反射率変化について議論しており,顕著なレーザー光照射位置の依存性を,マイクロメートルの寸法を持つカンチレバーで起こり得る,数百Kを越える温度上昇によるアルミニウムのバンド間遷移閾値の変化によるものと結論づけた.これにより,超高速AFMで行うフェムト秒レーザー光照射による光熱効果を評価するための物理モデルが確立され,新規超高速AFMの開発の推進につなげることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度までに,(1)AFM探針の材料とするEO結晶の選定とAFM探針の作製,(2) AFM探針表面処理の検証,(3)EO結晶製AFM探針の電場感度と周波数特性の評価を行うことを課題としていた.課題(1)に関して,当初はGaPを超える約117 THzの広帯域性を持ったGaSeも候補としていたが,機械的強度の問題のため良好な基板を得ることが困難なため,GaPでAFM探針の作製を進めた.また,課題(2)に関して,GaPは比較的効率良く加工できる材料であるが,ピラミッド型探針の全ての面に表面処理を行うことは難しい.カンチレバーのたわみ量を抵抗値に変換して電気的に読み出す手法を採用したAFMシステムを用いているが,AFMスキャンに改善の必要があり,未だ課題(3)を達成できていない. 一方で,先述した光熱効果を評価するための物理モデルの確立など,構築中のシステムの一部である光学顕微鏡と超高速分光の組み合わせから独創的な成果が得られている.また,所属研究室の研究プロジェクトにおいて新たに導入された10 fsレーザー光を用いた光学系を調整し,放物面鏡を用いた超高速分光において時間分解能が10 fsにまで改善されていることを確認した.これは,ダイヤモンドの光学フォノンを時間分解計測できるほど時間分解能は高く,EO効果の計測によってダイヤモンド結晶もAFM探針として応用できる可能性が示されている.さらに,円偏光パルス光による磁化励起とそれによる位相の揃ったフォノン(コヒーレントフォノン)の励起も実現されており,広帯域磁場計測への展開に関しても成果が得られつつある.以上は計画以上の進捗を含む内容である.総括すると,EO-AFMの完成に関して一部遅れはあるものの,周辺の研究には計画以上に進んでおり研究の完成時には当初の計画よりEO-AFMの広範な応用可能性を示すことが期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
現状ではGaP結晶の探針を用いたAFM測定を実現できていないため,まずはGaP結晶の探針から十分な信号強度が得られるように,光学系を最適な状態にする.現在までに達成された顕微鏡視野下における超高速分光の時間分解能は約30 fsであるが,当該年度では10 fsにまで改善することを目指す.ただし,顕微鏡の構成素子が広い周波数帯域(700 nmから900 nm)に対して均一な特性を持つ必要があり,理想的な素子の入手が困難である場合はこの目標を達成できない可能性がある.しかし,時間分解能が30 fsであっても多くの材料のコヒーレントフォノンの観察においては十分であるため,コヒーレントフォノンの観察を進めながら必要な励起光強度の実現を優先する.また,顕微鏡視野下における超高速分光は,光学顕微鏡像上で識別可能な範囲で空間分解計測が可能であり,現在までに不均質なサンプル(多結晶2次元ファンデルワールス材料)において,相を特徴づけるコヒーレントフォノンの周波数が異なっていたことから,複数の相が混在していることを確認できた.しかし,混在する相の起源については深く理解することができず,相の境界における局所計測などの新規の考察材料が必要である.また,顕微鏡視野下における超高速分光は励起位置と検出位置が異なる計測も可能にするため,特に伝播する電荷やフォノンなどの波を対象とした計測も可能である.このような周辺の研究は,EO-AFMを有効に利用できるサンプルの条件を明確にするため,今後の方策として推進する.また,既に電場・磁場計測の原理検証にも関わるサンプルに関しては実験結果が得られており,今後も引き続き,論文投稿の準備を進めながらEO-AFMの応用可能性を広げていく予定である.
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