2022 Fiscal Year Annual Research Report
非線形連成振動子のモード局在化を利用した マイクロレゾネータによる超高感度計測
Project/Area Number |
22J20546
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中村 匠実 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | MEMS / 非線形力学 / 微小質量・密度計測 / モード局在 / バーチャル弱連成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,MEMSレゾネータを用いた微小質量計測にて,超高感度化を可能にする新しい計測原理を提案し,バイオナノセンシングにおける未踏の微小質量計測を実現する,超高感度マイクロセンサの計測原理の提案と開発を研究目的としている.具体的には,自励発振する弱連成バーチャルレゾネータアレイと流路形成カンチレバーを組み合わせた制御手法の提案と実装を行い,計測可能下限質量を明らかにする.令和4年度は,感度向上のために同一特性の弱連成レゾネータを多数構築する必要がある課題(課題①),および粘性計測環境下での超高感度質量計測の実現のため新たな計測原理を構築する必要があるという課題(課題②)の解決に取り組んだ. 【センサの設計と製作(課題①)】MEMS技術によるレゾネータの製作を計画していたが,ウェットエッチングと拡散接合による,内部流路を有したステンレスレゾネータを製作した.この方法はMEMS製作に必要な高価な設備なしに製作可能な利点がある.これを用いて非線形速度フィードバック制御により自励発振させつつ密度計測を行った. 【バーチャルレゾネータのFPGAでの実装(課題①)】多自由度弱連成化による高感度化に向けて,バーチャルの1自由度レゾネータの実装に取り組んだ.FPGA単体で,レゾネータの運動を意図通り演算できたことまで確認した.令和5年度に実体レゾネータとの連成を行うことにより,高感度の質量・密度計測に発展させる. 【veering理論の解析(課題①&②)】弱連成にするほど高感度化するのがモード局在を用いた計測理論であるが,弱くしすぎると感度が悪化するという結果が得られている.これを理論的に解明するためにveering現象(弱連成時に固有周波数と対応するモードが変化する現象)の文献を手掛かりに解析を進めている.令和5年度に解析的に明らかにしたのち,実験による検証を行う.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計測理論について:本来は連成剛性の下限値を理論的に明らかにしたのち,多自由度にするほど感度が向上することを理論的に明らかにする予定であった.しかし,前者の解析手段として選んだ,弱連成にした際にモードが入れ替わるveering現象の文献の解読に時間を要しており,前者は完了しておらず,後者は着手できていない.前者に関しては,式展開中の不明点に関して,参考文献を複数種類参照する中で解決の糸口は見えつつあり,令和5年度には解読を完了し,理論への応用を進める予定である. 実験に関して:以下に示す問題①と問題②により遅れが生じた. 【問題①】レゾネータを振動させることで計測を行う装置を構築したが,加振対象の質量の大きさに対して加振装置(ピエゾアクチュエータ)の加振力の不足と,駆動周波数と共振周波数がメーカー推奨値よりも近かったため,過熱してしまい,振幅が安定しないということが起こり,意図通り加振できない問題が生じた.現在はより駆動力の大きく,かつ固有周波数の高いアクチュエータに交換することで改善策を講じ,有効性を確認した. 【問題②】ルンゲクッタ法によりFPGAにバーチャルレゾネータの実装を行ったが,その実装に時間を想定以上に要した.理由はリアルタイム信号処理プログラミング特有の仕様(実行時間の最小化のための,ループ配置や変数サイズに工夫が必要,など)に対し経験不足であったためである.現在は習熟が進みつつあり,影響は小さくなる見込みである.
|
Strategy for Future Research Activity |
理論面での方針:連成剛性の下限を解析的に与える理論構築を目指す.これにより,実用上重要なパラメータ設定を,やみくもな探索を不要とし,簡潔に与えられるようになる.また,多自由度系の自励発振振幅制御手法の理論構築に取り組む.非線形速度フィードバックによる振幅制御手法は,2自由度までは解析的に有効性が示されているが,より多自由度になるとまだ未解明である.これを解析的に明らかにし,実験での検証を行うことで,多自由度弱連成レゾネータへの応用を行う.また,多自由度にするほど高感度になるという先行研究についても調査に取り組み,自らの研究への応用を行う. 実験面での方針:2自由度弱連成バーチャル連成レゾネータによる高感度密度計測に,ステンレスレゾネータを用いて取り組むことが直近の目標である.現時点では単体(1自由度)での計測であるため,これにバーチャル連成レゾネータを組み合わせることで,1自由度に対して感度が向上するかどうかを検証し,かつバーチャル連成理論の強みである任意の連成剛性の設定に関して,前述の連成剛性の設定手法を実際に応用し,有効性を検証する.さらに,FPGAに実装可能な出来る限り多くのレゾネータを実装することにより,2自由度以上に高感度化が可能であるか検証する.並行して,レジストを用いたレゾネータの製作に取り組む.これにより,露光装置と現像液のみで高感度計測の可能なレゾネータを構築可能となるため,製作の上,ステンレスレゾネータと同様の実験に取り組むことで比較する.なお,計測実験の対象に関してはバイオナノセンシングを見据えた対象の選定を行い,実用環境下により近い計測実験を行うことで,よりインパクトを与えられる成果を得ることを目指している.
|