2023 Fiscal Year Annual Research Report
日系人研究・園芸学の融合による現代ブラジル果樹園民族誌の新基軸
Project/Area Number |
22KJ0447
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
吉村 竜 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 技術支援 / 果樹栽培 / 知識 / 農 / ブラジル日系人 / グローバル資本主義 / モラル / 対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度では、ブラジル南東部農村で果樹園経営に従事する日系人の、市場経済への適応プロセスについて、特に栽培技術の改良と開発支援の観点から考察した。明らかにしたのは、調査地のサンパウロ州ピラール・ド・スール市において、日系人が柿をはじめとする果物生産を通じて、剪定や接木などの果樹栽培に関する技術を体得してきた歴史であり、また、2000年代の技術支援プロジェクトにおいて、日系人が、プロジェクトに関わった日本人専門家の提案に耳を傾けつつ、最終的に各々が選び取っていたことであった。今年度の研究では、同プロジェクトにおいて専門家が日系人に伝授した「果樹との対話」の理念が、その根源部で、ブラジルの固有の生態環境のなかで長らく果樹と向き合ってきた日系人にとり、様々な解釈のもとで理解・共感できたということを明らかにした。そして、この成果を英語論文として発表した。 さらに、研究期間全体を通じて実施した研究の成果として、2024年1月に学術図書を出版した。本書では、日本にルーツを持つブラジル日系人が約100年の歴史の中で、農業を通じて日本由来の作物とともにブラジルに根を下ろした歴史を描き出した。グローバル資本主義の影響下で、在来の社会関係が破壊され、農業者の経済格差の拡大や都市・国外への人口流出が課題とされるなか、ブラジルで果樹園を営む日系人は、この状況の当事者として、ビジネスライクな経営戦略により農園を維持すると同時に、栽培者として日常的に果樹と向き合い果実の植生に関する知識を獲得し、経営者間の資源・知識の共有に取り組んできた。本研究を通じて明らかにしたのは、日系人が果樹との対話によって人・市場との対話をなし、そのなかで「モラル」を育み果樹園経営を安定化させていることであった。このことを、日系人が農業(生業・産業)のなかに、「農」の意味を再構成し埋め戻していく歴史として描写した。
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