2021 Fiscal Year Annual Research Report
日本語能力試験の「級外項目」に関する記述的研究‐テ形接続の機能語を中心に‐
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21J20205
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
井上 直美 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 級外項目 / 級外下位ポイント / テ形接続の機能語 / 日本語文法 / 上級以上の学習者支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、次の3つの課題に取り組んだ。(1)「~てナンボ」の意味・機能について、(2)「~てよこす」の意味・機能について、(3)「~てのける」の意味・機能について、である。 (1)の「~てナンボ」は、方言ではあるが、メディアなどを通じて見聞きするため、さらなる上達を目指す日本語学習者にとって気になる表現になっている。(1)は前年からの継続課題であるため、当該年度はこれまでに進めてきた分析内容を精査し、論文として公表することに注力した。この論文は、査読付き学会誌に掲載された。 (2)の「~てよこす」は、広義の授受を表し、また視点性を有するため、日本語学習者にとって理解に困難が伴いやすい表現である。そこで、コーパスで収集した実例を用いて、移動対象物や2者間の距離的関係について調査し、その特徴を明らかにした。また、本動詞「よこす」との比較、「~てくる」や「~てくれる」との比較考察を行うことにより、「~てよこす」からぞんざいな印象が生じる仕組みを示した。この内容は、国際シンポジウムでの口頭発表後、学術論文として投稿し、査読付き研究会誌に掲載が決定した。 (3)の「~てのける」は、辞書類に「~てしまう」の意を表すと説明されていることがあり、日本語学習者が疑問を抱く表現である。そこで、コーパスを用いて、現代日本語における「~てのける」の実例調査を行い、その特徴を探るとともに、「~てしまう」との競合関係を前提とした通時的な考察も加えた。その結果、現代日本語の「~てのける」は、前接動詞が「やる」「言う」「する」の3つに偏ること、主用法は話者の評価的意味(驚き/見事さ⇔奇異さ)を含意する三人称主語文の「逸脱用法」であること、現代日本語に見られるような前接動詞の偏りは江戸期以前の資料には見られないことが明らかになった。この内容は、日本語文法学会第22回大会で口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、上記「研究実績の概要」で述べた通り、2つの課題を論文として公表することができた。また、残りの1つも学会発表を行い、現在それを踏まえ修正中である。このように、当初の目標を達成できたため、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
『日本語能力試験出題基準〔改訂版〕』に記載されていない、いわゆる「級外項目」や、記載があっても、テキスト類や教育機関で提示されない抜け落ちた用法、すなわち「級外下位ポイント」となるテ形接続の機能語は複数存在する。これらについて、さらなる上達を目指す日本語学習者の意見、助言を取り入れ、優先して取り組む新規課題を設定し、今後も調査・分析を進めていく。なお、当初の計画では、第二年度に従属節に出現するテ形接続の機能語の特殊な用法についての分析も視野に入れていたが、研究の全体像を考慮し、テ形接続の機能語が主節文末に出現する場合を中心に進める方向に修正することを検討している。 これらと並行して、すでに調査、分析が終わっている課題については、論文として公表できるよう執筆を進めていく。
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