2022 Fiscal Year Annual Research Report
淡水貝類における概潮汐時計の獲得と汽水域進出の進化的基盤の解明
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21J20682
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
横溝 匠 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 概潮汐リズム / 表現型可塑性 / 塩ストレス耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題はチリメンカワニナにおけるおける感潮域適応とそれに伴う概潮汐リズムの獲得を実証することを目的にしている。本年度では、木曽川の非感潮域集団と感潮域集団を用いて潮汐サイクルに応答する遺伝子の探索を行った。 それぞれの集団の個体を一定水位環境で飼育したコントロール群と、実験室で人工的な潮汐環境に暴露した潮汐暴露処理群に分け、恒常環境下で3.1時間おきに固定した。RNA-seqにより遺伝子の発現リズムを網羅的に調べ、潮汐暴露処理群でのみ12時間周期で発現量が振動する遺伝子を探索した。その結果、、感潮域集団では潮汐暴露処理によって概潮汐リズムを示す遺伝子の個数が増加した。このことから、感潮域の個体では非感潮域の個体に比べて多くの遺伝子が概潮汐時計に制御され、12時間周期の発現リズムを示すようになったと考えられる。また、ここで見つかったいくつかの遺伝子は概潮汐リズムの発現に関与している可能性があるため、次年度におこなう概潮汐時計遺伝子の探索における候補遺伝子として利用できると考えている。 また、過去に探索した塩水応答遺伝子についてその発現周期性を調べることで、概潮汐リズムと塩ストレス耐性の関係を考察した。その結果、多くの遺伝子が満潮かつ高い塩濃度環境で高発現になることがわかり、塩ストレス耐性に関わると予想される遺伝子の発現がリズミックに制御されていることが示唆された。これは、塩濃度が変動する汽水環境において概潮汐リズムをもつことの適応的意義の一つであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概潮汐リズムの可塑性を検証する実験は概ね順調に進んだ。また、翌年度に行う概潮汐時計遺伝子の探索に向けて候補遺伝子をピックアップするところまではほぼ完了することができた。一方で、論文の執筆に予定より時間がかかってしまったため、河川間の平行進化を検証する実験や、概潮汐リズムの柔軟性を検証する実験は少し遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、昨年度までに剪定した候補遺伝子をさらに吟味した上で、その遺伝子をRNAiによって発現抑制し、概潮汐リズム表現型に影響が出るのかを調べていく。また、昨年度完了することができなかった河川間の平行進化の検証と、概潮汐リズムの柔軟性の検証を行う。木曽川以外の河川の個体はすでに実験室でいくつか維持されているので、これを利用して概潮汐リズムの発現能力が木曽川以外の河川の個体でも平行的に獲得されているのかを検証する。また、概潮汐リズムの柔軟性を調べるために、自然の潮汐周期(約12.4時間)から外れた周期の潮汐サイクルを再現し、これに個体を同調させ、概潮汐リズムが変化するのかを調べる。
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