2022 Fiscal Year Annual Research Report
ジェンダー問題としてのストーキング関連行動に関する臨床社会学
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22J01603
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chiba University |
Research Fellow |
西井 開 千葉大学, 社会科学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 性暴力 / 暴力連続体 / マイクロアグレッション |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、ジェンダー暴力にかんする調査の厚みを増すために、ストーキングやDVの問題に近接する性暴力の問題にかんして、加害の経験のある男性1名にインタビュー調査を行った。現在「加害者」というラベリング当事者の心理にもたらす影響や加害者トラウマといった心理的側面が臨床にどのような影響を与えるのか、分析を行っている。また、ストーキングに近接ストーキングやドメスティック・バイオレンスなどのジェンダー暴力について、差別や偏見から生じる暴力連続体の概念を通して理解することを進めた。具体的には、マイクロアグレッションや差別にかんする書籍や論文の収集に務めるとともに、アデレードのDulwichセンターの研修を受講し、差別の問題への心理的な洞察にかんして学びを深めた。さらに、ストーキングの背景にある問題として存在する「社会的孤立」について論文にまとめ「社会学評論」に投稿した。これは『なぜ男性は社会的孤立にいたるのか』と題して現在印刷中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DVやストーキングといったジェンダー暴力の問題を男性性の視点から解明し、問題解決まで結びつけるという本研究課題の方針に対し、2023年度は暴力のメカニズムの把握および臨床アプローチの理論化まで進むことができ、ある程度満足のいく進捗が見られている。しかし、ストーキングにかんしてはまだ十分なデータが集まっているとは言い難い。当初、①親密ではない関係性におけるストーキング、②交際関係の中で生じるストーキング、③離婚後発生する深刻なストーキングといういくつかの層のインフォーマントからデータを収集すると予定していたが、未だ②にかんしては十分なインフォーマントがおらずにデータを得られていない。そのため、来年度は現在申請者が関わる加害者臨床の現場で若者を対象としたカウンセリングを実施することで、データを収集していく。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、大きく3つの形で研究成果を発表することを目標とする。 第一に、上述した3つの層のインフォーマントから収集したデータをもとにした、ジェンダー問題としてのストーキングにかんする論文の執筆を行う。ストーキング経験のある若年男性のデータを収集して分析し、最終的に取りまとめた論文を発表する。 第二に、日本におけるジェンダー暴力にまつわる臨床実践の視察を行う。とりわけDVの領域では加害者臨床の実践が広がっているが、その内実は十分に明らかになっていない。とりわけ沖縄などの地方都市における男性の暴力は、申請者がフィールドとする関西の都市圏で出現する暴力とは異なる様相と持つことが予想される。そうした暴力に対してどのようなアプローチがありうるのか、現地の加害者臨床の専門機関を視察し、申請者が取り組むアプローチと比較検討することで、アプローチのより綿密な理論化を目指す。 第三に、親密な関係性におけるジェンダー暴力にかんして、加害者が経験する生活世界、その背景にある社会構造の問題、臨床の中で進んでいく脱暴力のプロセスをまとめた書籍を発表する。現在晶文社と具体的な出版企画が進んでおり、一般読者を想定したものを出版する。その中で臨床アプローチの理論化も提示する。
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