2023 Fiscal Year Research-status Report
ジェンダー問題としてのストーキング関連行動に関する臨床社会学
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22KJ0468
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
西井 開 千葉大学, 社会科学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | DV / 加害者臨床 / ホモソーシャル |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、ドメスティック・バイオレンスやストーキングといった親密な関係間におけるジェンダー暴力の事例データの収集と、脱暴力に向けた臨床アプローチの理論化を進めた。 第一に、申請者が臨床心理士として実践しているDV加害者臨床の現場をフィールドとして、面接やグループワークの経過を通して、クライエントである加害者男性による暴力のメカニズムと脱暴力のプロセスにかんして、逐語録などにまとめて事例データを収集した。 第二に、脱暴力をサポートするための臨床アプローチのノウハウについて、諸外国で実施されている実践を視察・研修参加を通して洗練化を進めた。具体的には、先住民族に対話実践を取り込んだニュージーランドの心理実践、およびオーストラリアで長らくナラティヴ・セラピーの実践を蓄積してきたDulwichセンターのワークショップに参加した。 第三に、臨床アプローチのあり方について、これまでの認知行動療法をベースとした加害者カウンセリングとは異なる、クライエントの社会的文脈を重視したナラティヴ・セラピーに基礎を置く新たな手法の理論化を試みた。これは『加害の地図を描く:DVに作用する男性性を可視化する臨床実践』として論文にまとめた。 第四に、加害を引き起こす社会的要因についての分析を進め、社会に埋め込まれた男性に対する免責の構造、性差別、ホモソーシャルなどについて、研究会発表および論文執筆を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DVやストーキングといったジェンダー暴力の問題を男性性の視点から解明し、問題解決まで結びつけるという本研究課題の方針に対し、本年度は暴力のメカニズムの把握および臨床アプローチの理論化まで進むことができ、ある程度満足のいく進捗が見られている。しかし、ストーキングにかんしてはまだ十分なデータが集まっているとは言い難い。当初、①親密ではない関係性におけるストーキング、②交際関係の中で生じるストーキング、③離婚後発生する深刻なストーキングといういくつかの層のインフォーマントからデータを収集すると予定していたが、未だ②にかんしては十分なインフォーマントがおらずにデータを得られていない。そのため、来年度は現在申請者が関わる加害者臨床の現場で若者を対象としたカウンセリングを実施することで、データを収集していく。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、大きく3つの形で研究成果を発表することを目標とする。 第一に、上述した3つの層のインフォーマントから収集したデータをもとにした、ジェンダー問題としてのストーキングにかんする論文の執筆を行う。ストーキング経験のある若年男性のデータを収集して分析し、最終的に取りまとめた論文を発表する。 第二に、日本におけるジェンダー暴力にまつわる臨床実践の視察を行う。とりわけDVの領域では加害者臨床の実践が広がっているが、その内実は十分に明らかになっていない。とりわけ沖縄などの地方都市における男性の暴力は、申請者がフィールドとする関西の都市圏で出現する暴力とは異なる様相と持つことが予想される。そうした暴力に対してどのようなアプローチがありうるのか、現地の加害者臨床の専門機関を視察し、申請者が取り組むアプローチと比較検討することで、アプローチのより綿密な理論化を目指す。 第三に、親密な関係性におけるジェンダー暴力にかんして、加害者が経験する生活世界、その背景にある社会構造の問題、臨床の中で進んでいく脱暴力のプロセスをまとめた書籍を発表する。現在晶文社と具体的な出版企画が進んでおり、一般読者を想定したものを出版する。その中で臨床アプローチの理論化も提示する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額生じた理由として、2023年度中には十分なインフォーマントが獲得できなかったこと、現段階ではジェンダー暴力を理論化するための参考文献の購入が十分であったことが理由としてあげられる。 インフォーマントの獲得にかんしてはすでに2024年度中に獲得する準備を進めている。新しく収集したデータを分析するために今年度も助成金が必要となる。さらに、申請者が取り組んでいる加害者臨床のアプローチで得た事例データだけでは、ジェンダー暴力を体系的に理解することができず、他の臨床実践との比較分析が必要であり、そのための視察を進めるための費用も必要となる。以上の新たに得たデータを総合して最終的な理論化を進めるための文献を購入するための費用も必要となる。
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