2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J00801
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 貴俊 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | ウナギ属 / 産卵回遊 / バイオロギング / 数値シミュレーション / 日周鉛直移動 / 定位 / 地磁気 / 光 |
Outline of Annual Research Achievements |
産卵回遊を行うウナギ属魚類の行動特性を明らかにするため、以下の項目について研究を実施した。 1.ウナギ属各種の日周鉛直移動の特性:セレベスウナギおよびニホンウナギの行動追跡データを解析した。長距離回遊を行うニホンウナギにおいて、産卵回遊中の遊泳水深は月齢や月高度、太陽高度との間に有意な相関が認められ、水中の光環境に対応して浅深移動を行なっていることが分かった。また、1日に経験する最低水温は産卵回遊を通して約5℃であり、遊泳水深の下限は水温によって規定されているものと推察した。一方、短距離回遊を行うセレベスウナギにおいても、月齢や日出没のタイミングに合わせて遊泳水深が変化しており、ニホンウナギと同様に光環境によって遊泳水深が決定されるものと考えられた。次年度は、他5種のウナギ属魚類の行動追跡データも同様の解析を行い、主観比較を行う予定である。 2.数値シミュレーションによる産卵回遊過程の推定:ウナギ属魚類の定位に地磁気が関連しているという仮説を検証するため、西部北太平洋におけるニホンウナギとオオウナギを想定した粒子追跡実験を行った。地磁気全磁力の水平勾配に従って定位した場合のみ、両種の成育場の地理分布を代表する複数の地点から投入した仮想粒子が高い割合で産卵場へ到達した。また、地磁気全磁力に従って定位することで、産卵場よりも北に位置する台湾沖から回遊を開始したオオウナギは南下し、南に位置するインドネシア沖から回遊を開始したオオウナギは北上することが分かった。この結果から、ウナギ属仔魚の往路回遊によって異なる地点へ輸送された各個体が成長し、産卵回遊を行う際、種もしくは集団内で共通の定位方法をとることによってマリアナ諸島周辺海域の産卵場へ回帰しているものと推察された。次年度以降は、大西洋および南太平洋におけるウナギ属魚類各種に本手法を適用することでウナギ属の定位機構に迫る予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初では、地磁気を観測するデータロガーをウナギに取り付け、日本各地から放流する計画であった。しかし、昨今の新型コロナウイルス感染流行の影響を受け、本年度中にデータロガーを入手することができなかった。そのため、今年度の放流実験は断念し、次年度に計画していた数値実験を本年度に行うこととした。その結果、太平洋における地磁気全磁力の水平勾配がニホンウナギとオオウナギにおける産卵回遊中の定位に重要な役割を果たしていることが分かった。この成果はウナギ属の定位機構に関する研究を大きく進展させるものと期待できる。なお、放流実験は次年度の実施を試みる。 ウナギ属魚類の日周鉛直移動の特徴を決定付ける環境要因を明らかにするため、研究代表者がこれまで蓄積してきたニホンウナギの行動追跡データと国内の研究者協力者から提供されたセレベスウナギの行動追跡データを解析した。その結果、両種の日周鉛直移動が光および水温環境に基づく共通のメカニズムによって規定されている可能性が示唆された。なお、ニホンウナギにおける研究成果は原著論文として発表済みである。また、本年度は海外の研究者と交渉を行い、大西洋と南太平洋における4種のウナギ属魚類の行動追跡データの提供を受けている。次年度以降は、これらを含めて産卵回遊行動の特性と定位方法を種間比較することで、その生態学的意義を考察する。 以上、本年度はやむを得ない事情により研究の実施予定を変更することになったが、研究期間全体にわたる計画としては概ね順調に研究が進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、前年度に実施できなかった放流実験を再度試みる。この放流実験により、ニホンウナギの産卵回遊における定位方向実測することができるため、前年度の数値シミュレーションによって得られた仮説の妥当性を確認する。また、これと並行して、大西洋におけるヨーロッパウナギとアメリカウナギの定位機構を推定する数値シミュレーションを行う。これらの結果を総合して、北半球におけるウナギ属魚類の定位機構を明らかにする。 前年度に国外の研究者らと交渉を行い、大西洋と南太平洋における4種のウナギ属魚類の入手した。前年度において確立した解析手法を複数のウナギ属魚類の行動追跡データに応用することで、ウナギ属魚類における日周鉛直移動の種間比較を行う。
|