2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study of the mechanism of interhemispheric coupling in the middle atmosphere using a high-resolution general circulation model
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21J20798
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
奥井 晴香 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 中層大気 / 大気重力波 / 大気力学 / 大気大循環モデル / 衛星観測 / テレコネクション |
Outline of Annual Research Achievements |
中層大気では、大気波動による運動量の再分配によって放射で決まる構造とは大きく異なる循環・温度場が形成・維持されている。大気重力波(以下、重力波)は特に中間圏の大循環の駆動において中心的な役割を果たす。しかし、時空間スケールが小さい波であるため、多くの気候モデルでは重力波による運動量輸送はパラメタリゼーションによって表現される。重力波そのものを解析できる全球一様なデータセットは非常に少なく、このために重力波の中層大気力学における役割は十分に明らかではない。 そこで本研究では、重力波を陽に扱う大気大循環モデルJapanese Atmospheric General Circulation Model for Upper Atmosphere Research(JAGUAR)を用いる。高解像度版JAGUARは、地表から下部熱圏までの全中性大気を含むモデルとしては世界トップレベルの解像度を持つ。このモデルを用いて、全中性大気を含むデータ同化システムJAGUAR-DAS(Koshin et al., 2020, 2022)で作成された再解析データを初期値とする、7年の北半球冬季の再現実験を実施した。実験結果を解析し、特に重力波が中層大気の全球的な遠隔結合に果たす役割の解明を行っている。 当該年度には、JAGUARのモデル内重力波の再現性を検証するため、NASAのAqua衛星に搭載されているAtmospheric InfraRed Sounder(AIRS)による観測との詳細な比較を行った。重力波の振幅及び運動量フラックスについて、ピークの分布と大きさはAIRSの観測値とモデルデータの間で定量的にほぼ一致した。本結果は高解像度版JAGUARの重力波の再現性が概ね高いことを示し、同モデルを用いた重力波研究の妥当性を支持する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた大気大循環モデル再現実験ならびに研究の進捗状況は以下の通りである。 1. 国際観測・モデリングプロジェクトInterhemispheric Coupling Study by Observations and Modelling(ICSOM; Sato et al., 2023)の対象期間にあたる7年分の高解像度大気大循環モデルJAGUARを用いた北半球冬季の再現実験を実施した。 2. データ同化システムJAGUAR-DASを用いて作成された全中性大気の長期再解析データを用いて、1に示した高解像度JAGUAR再現実験とも比較しながら、成層圏突然昇温*の中層大気での前駆現象における重力波の役割を明らかにした。*成層圏突然昇温:冬の極域成層圏の気温が数日で数十Kほども上昇する現象。極域上部成層圏での惑星規模波の砕波によって発生する。 3. 英国Bath大学との共同研究で、衛星観測との直接比較により高解像度JAGUAR再現実験における重力波の再現性を検証した。大型大気レーダーの観測における短周期擾乱との比較も実施した。 当該年度内に行った論文および学会での研究成果の発表状況は次の通りである。まず、2の成果について、米国地球物理学連合の学術誌Journal of Geophysical Research - Atmospheres (JGR) に論文を投稿準備中である。また、3の成果について、同じくJGRに投稿した論文が出版された。レーダーとの比較については、研究代表者が第6著者(29人中)であるSato et al. (2023) にその結果が記載されている。国際学会では2件(うち口頭発表1件)、国内学会では3件(うち口頭発表3件)の発表を行った。 これらの進捗状況及び研究成果から、おおむね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに実施した7年分の北半球冬季の高解像度大気大循環モデルJAGUARによる現実大気の再現実験結果を継続して解析する。これにより、冬季極域成層圏と夏季極域上部中間圏の気温が正の相関を持つ全球規模の遠隔結合である「南北半球間結合」のメカニズム解明を行う。 さらに、本年度には成層圏突然昇温の前駆現象のひとつとして知られる、冬の中層大気の西風ジェットが弱化・極向きに移動する現象(preconditioning)において、重力波がジェット上部の西風を減速することが突然昇温発生に重要であることを再解析データと高解像度再現実験結果を用いて示した。この研究成果を、米国地球物理学連合の学術誌JGRにて発表する。 高解像度再現実験結果は、全中性大気における重力波の気候値とそこからの偏差を解析可能な世界初のデータである。そこで、本研究課題終了後の研究も含めた中層大気重力波研究における課題発見の基礎として、中層大気の重力波の気候学的特徴の調査を行う。本モデルが提供する重力波の気候値は、重力波を陽に扱わない他のモデルにおける参照値のひとつともなる。
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[Journal Article] Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modelling (ICSOM): Concept, campaigns, and initial results2023
Author(s)
Sato, K., Tomikawa, Y., Kohma, M., Yasui, R., Koshin, D., Okui, H., et al.
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Journal Title
Journal of Geophysical Research: Atmospheres
Volume: 128
Pages: e2022JD038249
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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