2022 Fiscal Year Annual Research Report
蛇紋岩化反応に依存した原始的微生物の生態に基づく地球外生命探査の最適化
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21J20802
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
末岡 優里 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 岩石ー水相互作用 / 蛇紋岩化反応 / 地下微生物 / 生命検出技術 / 地球外生命探査 |
Outline of Annual Research Achievements |
生命が誕生した可能性が高い天体の一つである火星は、地球と類似した惑星の形成・進化過程を経ており、その地殻は地球の海洋地殻と類似した玄武岩質溶岩で構成される。地下深部には液体状の水の存在が示唆されており、生命の生存を支える岩石-水反応が起きていた可能性がある。現在火星では、生命探査を目的とした岩石試料のサンプルリターン計画が進行中であるが、岩石内部に生息する生命に対する知見や分析技術は、未だ乏しい。本研究では、地球における火星アナログ試料として海洋地殻上部の玄武岩質溶岩から得た、炭酸カルシウムで充填された亀裂を含む玄武岩質溶岩コア試料を用い、岩石内生命検出手法の開発・改良および岩石内生命の生態系について調査を行う。 本年度は、岩石試料中の粘土鉱物/有機物と微生物の空間的分布および関連性を評価することを目的として昨年度から取り組んでいる、赤外分光法を用いた生命検出手法について、さらに分析データを厚くするとともに、より詳細な情報を得た。 玄武岩コア試料に、これまでの研究で開発した、岩石内生命のDNA染色による可視化手法を適用し、微生物細胞の存在が示唆された領域でSEM-EDS分析を行ったところ、岩石ー水反応で形成するMgに富むスメクタイトグループの存在が確認された。この領域でサブミクロンの高分解能を持つO-PTIRを用いて局所赤外分光分析を行ったところ、微生物細胞に特徴的なスペクトルとスメクタイトグループの粘土鉱物に特徴的なスペクトルが共存する領域が確認できた。よって、局所赤外分光法による生命検出手法では、その場・非破壊での分析が可能である利点を活かし、岩石コア薄片内でも空間的情報を損なうことなく、微生物細胞の分布と特定の鉱物の相関を明らかにできることがわかった。この成果は、今後岩石内における微生物のハビタビリティと粘土鉱物分布の相関を詳細に調査していく際に非常に有用であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
薄片内の粘土鉱物/有機物分布および微生物分布を明らかにする目標について、NanoSIMSを用いた分析を行うことはできなかったが、サブミクロンレベルの局所で赤外分光測定を行うことができる、0-PTIRを用いて、微生物細胞の存在する岩石コア薄片について昨年度よりも詳細に分析することで、微生物細胞のスペクトルとスメクタイトグループのスペクトルが共存する領域を明らかにすることができ、微生物細胞の分布と粘土鉱物の相関について、より空間的な情報を得ることができたという点では、当初の目的に沿う結果が得られた。今後は、微生物と粘土鉱物が共存する領域の鉱物学的特徴についてより詳細に調査していきたい。 岩石内に生息する微生物生態系の解析については、当初計画していたメタゲノム解析まで行うことはできなかったが、粉末化した玄武岩コアの水簸試料から抽出したDNAを用いて16S rRNA解析を行い、群集組成を調査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
微生物細胞の存在が確認されている玄武岩質溶岩コア試料を対象とし、岩石内に生息する微生物の生物学的特徴に関しては、群集組成を明らかにできる16S rRNA遺伝子解析および、代謝様式や始原的な特徴の有無を明らかにすることができるメタゲノム解析を行い、岩石の鉱物学的特徴に関しては、最先端の固体分析技術を駆使して、解析が困難な蛇紋石やサポナイトなどの混合層鉱物を同定することを目指す。 生物学的特徴を明らかにするために、蛇紋石およびサポナイトを主要粘土鉱物として含むと考えられる玄武岩質溶岩コアに対して水ひ処理を行ない、得られた水ひ試料からDNAを抽出した後ショットガンライブラリー法によってDNA配列を決定し、ゲノムを構築する。次に、構築したゲノム配列情報を解析し、岩石試料内部に生息する微生物の生物学的分類、代謝様式および始原的な特徴の有無について明らかにする。 また、微生物細胞の分布と関連する鉱物種および分布を明らかにするために、これまでに行ってきたEDS付属の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた化学組成分析に加え、放射光を用いた軟X線分析(μXRF)や二次元高分解能二次イオン質量分析装置(NanoSIMS)を用いて、微生物細胞が密集する領域をの元素マッピングおよびスペクトル情報を取得する。また、EDS付属の透過型電子顕微鏡(TEM)で鉱物解析を行い、制限視野電子線回折図形と高分解能観察を組み合わせて、混合層鉱物の有無について明らかにする。
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